□ 歩いていこう
第2話
イルカは、正直厄介なことになったと思っていた。
発端は、火影からの相談にあった。
元暗部の極度の性格破綻者がいる。人並の神経を回復できそうな兆しはあるが、通常任務に戻って日が浅い。自分からわざわざ血を見る任務に首を突っ込む異常性など問題は多々ある。
目的は、はたけカカシの人間更生。その一歩として、まず人とのコミュニケーションを学ばせたい。いずれ下忍を任せる立場になるカカシと接し、あの男から人間らしい欠片を見出して欲しい。
面と向かって言うのは憚れたが、それは随分な物言いであった。
まるで、男が獣同然であるような認識。それは少し言いすぎではないかと思ったが、尊敬すべき火影の顔は憔悴し、カカシという人物について老人なりに真剣に考えている様子だった。
自分が選ばれたのは、長く教職についた実績と、過去何人かの問題児の更生に成功していることが大きい。アカデミーの生徒ならまだ可愛いが、忍びの世界では大人の方が病みやすい傾向がある。さすがに暗部と直接関わったことはないが、これまでに表の世界へ戻れない忍びと何度か対話したことはある。
はたけカカシも、これまでのパターンに合うだろうか。
上手くいくか分からない。だが、イルカは引き受けると承諾した。
火影には幼い頃から世話になっている。どれだけ恩返ししても足りないほど。木の葉の里も大事に思っている。その里の今後の大事な戦力となる上忍ならば、なんとか手を貸したいとイルカは考えた。
問題はどうやって接触するか、だが、
ちょうど野外任務で足に怪我を負ったイルカは、これを利用することに決めた。
傷自体は大したことではない。二日もすれば歩くこともできるが、神経科の医師に頼んでわざと歩けない状態にした。一種の催眠の状態に近く、実際の神経には異常はない。両足が使えないことはイルカにとっても大きな痛手となったが仕方がない。今回の件が早期に終わることを祈り、努力しよう。
医師には口裏を合わせ出張に出たことにしてもらった。(本当は病院に通常勤務)
初対面でありながら、あまりに体当たりな接触だが――やるしかない。
動かない足に心細さを感じながらも、イルカは奮起した。‥‥が、状況はやはり前途多難だ。
カカシの顔は写真で確認していたが、覆面に猫背、全身から滲み出る倦怠感と言い知れぬ気迫に少し驚いた。
(‥‥‥これは駄目かも)
一目で、この男が普通なら一生接することのないタイプの人間だと気づいた。明らかに、今までとはわけが違う。‥安請け合いをしてしまっただろうか。そんな不安すら抱いたが、
見舞いに来てくれていた子供が勢い余って男にぶつかり、怯えて泣き出しそうになった。急いで助け舟を出したが――カカシの手は、優しく小さな頭を叩いた。
まるで子犬をあやすようなやわらかな仕草に、イルカはおもわず目を見張り、
(‥いや、大丈夫)
さっきの自分の印象を覆した。何事も、外見で判断してはならないものだ。
カカシはなかなか手強い。最初からやる気がないことを宣言する態度は悪びれなく、意味なくこちらが謝りたい気分にさせられる。意識してかどうかは分からないが、人の上に立つことに慣れている人物だ。
自分よりはるかに多くの任務を経験してきた、本来なら頭を下げるべき忍だが、イルカも引くわけにはいかなかった。
やんわり、しかし強引に攻めると、カカシは意外に隙を見せた。勝手が違うのか、渋々言われた通りに車椅子を押す男に、上手くいくかも知れないと安堵の息をもらす。このまま家の中まで連れ込んで、真綿で包むように宥めていこう。
車椅子を押す力は、振動が足に響かない速度を維持していた。意識しての配慮かどうか。自分を労わってくれているカカシに、希望は確かに見えていた。
―――が、
急な用事を思い出した、とベタないい訳でカカシはあっけなく退散した。
引き止める事はできたが、イルカはあえて行かせた。嘘だろう、とは思ったが、もしかしたら本当かも知れない。
一人になると、すぐに雨が降り始めた。最初から人通りは多い場所ではない。通りかかる人影もなく、イルカはぼんやり濡れるに任せた。寒い、とは思わない。むしろ、なんだかふわふわして気持ちがいい。(熱があるとは気づかなかった)
待つのは苦痛ではなかったし――カカシは、戻って来てくれた。
なにやってるんだと怒鳴られて、はっと目が覚める。少しぼんやりしていたらしい。顔を上げると、怒った右目が自分を見下ろしていた。
やっぱり来てくれた、と本心から嬉しさがこみ上げてくる。
しかし、カカシの怒りはますます激しくなり、自分の良心を計ったのかと聞かれて、戸惑った。
そうかも知れない。嘘か本当か迷ったが、そういった打算がまったく無かったかと言えば嘘になる。なぜなら自分は、カカシの器を知る必要があるから。壊れた部分を修復して、大きくしていく。それが役目だ。
色々といい訳を考えている間に、ひょいっと肩に担がれてしまった。少々乱暴な動作に足が痛む。
アホじゃないかと何度も怒られて正直むっときたが、
――紫陽花が綺麗だったから。
それも本当のことだ。
雫の重さに耐えながら可憐な花を咲かせる紫陽花を、彼にも見せてあげたいと思ったけれど、
カカシは、一瞬しか紫陽花に目をくれなかった。
それがなんだか、とても寂しかった。
***
共同生活とは言っても、車椅子の生活はイルカの家では不自由だった。
イルカがカカシを案内したのは、火影によって手配された家。車椅子でも問題なく過ごせる作りで、共同生活をする間だけ、ここを使用してよいことになっている。
必要最低限な家具は揃っており、職場からは少し遠いが、イルカにとってはありがたかった。慣れない車椅子に、ストレスを感じていないわけではなかったから。
えらいこと引き受けちゃったな、と今でも思うが、こうなっては仕方がない。
自分に何が出来るか分からないが、できる限りのことは挑戦していこう。
それに、カカシの態度にも妥協が見えてきた。
今日のずぶ濡れの件で、当然のように風邪を引いたイルカに、カカシもさすがに負い目を感じたらしい。渋々といった様子で、介護の任を渋々引き受けると言った。「大したことはできませんよ」と、最後まで無力ぶりをアピールしていたが――――残念ながら、それは真実だったといえよう。
高名なカカシの活躍は噂では何度も聞いたことがある。
が、ベストと靴を脱ぎ、居間に素足で立つ猫背の姿は――お世辞にも勇ましいとは言えなかった。実際彼は、自分で言ってた通り、人の世話なんて出来ない。むしろ、しない。
イルカは初め、完全に放置された。
タオルを放ってくれただけでもマシな方か。当のカカシはさっさと自分用の部屋を決めて、そこで眠ってしまった。
残されたイルカはしばし呆然とし、くしゃみで我にかえる。
(‥‥‥とりあえず、風呂に入ろう)
重い車椅子を動かし、イルカは一人で風呂場に向かった。
洗うのを手伝って欲しいなんて言わないが、濡れた車椅子ぐらいは拭く手を貸してほしかった。
家まで送っていって欲しい。確かにそれしか頼まなかったが――気配りの足りない男だ。
掃除や洗濯、料理など、この家の作りならイルカにも出来ないわけではない。が、カカシに協力してもらわなければ意味がない。
(‥‥にしても‥‥手強そうだなぁ‥‥‥)
いったいあの男とどうやって接していこうかと、記念すべき初めての共同生活の夜。
イルカはベットの中で悶々と考え込んだ。
翌朝、カカシの姿はすでに無かった。
台所のメモは白紙。今日の用事を伝える気すらないらしい。介護の任はどうしたのだ。
イルカはため息をつき、空腹のおなかを擦った。
昨日の夜から何も食べていない。
「‥‥なんか作るか」
車椅子を動かして台所へ向かう。が、作りかけてやめた。
(いや‥、カカシさんが戻ってくるまで何も食べないでいよう)
自分も相当に不器用な種類の人間になるが、何事も体当たりがイルカのモットーである。
まだ風邪気味で、食欲が無いといえば無い。
温かいお茶だけを含み、イルカは今日は休むことをアカデミーに伝えた。
こんな体では、教える授業の内容も限られてくるが、事務処理は可能だ。すでに運び込んである手荷物から、イルカは溜まった雑用に取り掛かった。
時間はあっという間に過ぎ―――、
「‥‥‥‥なにやってんの?」
後ろからふいに声をかけられ、イルカは仰天する。
慌てて振り返ると、そこには屈んで手元をのぞくカカシの姿。いつの間に帰ってきたのか。
「し、仕事です。‥‥お帰りなさい」
付け足すと、「あ、ただいま」とカカシも答えた。
窓を見れば、もう外は暗かった。そんなに集中していたか。
カカシは埃くさい自分の体をはたき、
「悪かったですね。あんたのこと忘れてて。いつも通り任務を終わらせて戻ったら、受付のじじいに怒られました。介護はどうしたって」
薄暗い部屋の中、疲れた口調で言いながら、どさり、とソファに腰を下ろした。
両手を広げ、寛いだ態度を見せたが、唯一露な右目が静かにこちらを見る。
「おかげで、オレ、当分任務につけません」
「‥‥‥‥‥‥」
ひやりと背筋に何かが走った。
カカシの不愉快な気分が伝わってくる。任務につけず、やりたくもない介護の任に縛られる現状に苛立ちを感じているのだ。その矛先は、誰であろう自分。
「‥これも任務ですよ。我慢してください」
「オレ、我慢は嫌いなんですよ〜」
「それでもです」
「はいはいはい。言われなくても分かってますよ」
あーあ、とカカシはくたびれた声を出した。覆面の上からでも分かる大きな欠伸に、イルカも大きなため息をついた。
ひとまずは、食事にしよう。
夕飯にしましょう、と言ったイルカに、カカシはさっさと外食に出かけようとした。それを慌てて引き止めて、家で作るのだと言った。
「めんどくさいですよ。‥じゃ、出前取りましょうか」
「駄目です、勿体無い。食材はあるんだから、作ればいいでしょう」
「メシなんか作れなくたって死にませんよ」
「食は人生の一部です。カカシさん、まさか作れないんですか?」
尋ねると、カカシは片眉を上げた。
「あれあれ、お得意の人間性チェックですか? メシぐらい作れますよ」
「じゃあ、ぜひ食べさせてください」
「いいですとも」
重々しく頷き、カカシはベストだけ脱いで台所へと消えた。
冷蔵庫の扉を開ける音や水音を聞きながら、イルカは内心しまったと思っていた。本当は共同で作るつもりだったのだが、売り言葉に買い言葉の流れになってしまった。そもそも、本当に作れるのかどうか。
こうなっては、カカシの腕前を信じるしかない。
昨日から水しか飲んでいない体に、イルカは心細い気持ちで台所の音を聞いていた。
―――やがて。
「はい、どうぞ」
テーブルについたイルカの前に、どん、と置かれた皿一枚。
それに盛られた浅黒い、いや、黄緑、いや、‥‥‥もはや色彩と呼べるものはなく、どろどろの形状は泥のようで、匂いもそれに近い。甘酸っぱい匂いも混じり、賞味期限から一週間放置した果物がこんな匂いを放っていたのをイルカは思い出す。
「どうぞ?」
カカシが自分の分を置き、再度聞いてきた。
強張った顔でその顔を見ると、カカシが覆面をずらす。突然見せた素顔に戸惑ったが、今はそれどころではない。どうするつもりかと見ていると、スプーンを手にとって――食べた。
もぐもぐと静かに咀嚼するカカシに、イルカは相手の皿を見る。いや、変わりはない。向こうの皿も、見た目の異様さは同様だ。
(‥‥見た目が悪いだけなのかも)
普通にぱくぱく食べているカカシに、イルカも思い切ることにした。
――が、一口食べて撃沈する。
食べられない。絶対無理だ。野外任務の時だって、もっとマシなものを食べた。
(‥‥でも、食べられないなんて言えない‥‥)
カカシはわざと食べられない料理を出したのだろうか。先ほどの態度からすると考えられないことではないが、当人は平気な顔で食べている。
ふるふる震える指を押さえ、イルカは覚悟を決めた。
鼻を使わないように、一気に全部口の中にかきこむ。噛んでいる余裕はない。とにかく腹に流し込むのだ。
「‥‥‥ゲホ‥‥‥っ」
急いで食べたせいで少し噎せた。
苦しそうに咳を繰り返すと、「あ〜あ、食べちゃった」とカカシがのんびり言った。
心底、ぎょっとした。
「‥‥‥どういう台詞ですか‥‥それは‥‥‥」
やっぱり何か‥と青ざめるイルカに、カカシはスプーンでかちんかちんと皿を叩いた。
「あんたが今食べたの、人間として食える最低ラインの食い物ですよ」
「‥‥どうして‥‥わざわざそんなもの作るんですか」
「栄養の面では問題ありません。偏ってますが、それを毎日食ってても、人並に成長できますよ」
眩暈がしそうだ。
元々用意されていた冷蔵庫の中の十分な食材が揃っていたはずなのに。まさか、こんな無駄な使われ方をされようとは。
なんだか気分まで悪くなってきたイルカだったが、
「それね〜、オレ小さい頃毎日食ってた時期があるんですよ。一番作った料理ですね」
「‥‥‥‥‥‥」
「戦時中とか、配給が届かない所ではそんなのばっかですよ。あんた、食ったことないの?」
「‥‥‥‥‥‥」
食べたことなんて、無い。
そんなこと、今の自分の狼狽ぶりを見れば一目瞭然だろうに。
(‥‥逆に計られたか)
やはり手強い、と思いつつも、カカシが少し内面を見せてくれたことは収穫だ。
「おかわり食べます?」
「‥‥‥まだあるんですか」
「たっぷり」
「‥‥‥いただきます」
これはおそらく、カカシからの試験。
すでにもう二度と見たくない食べ物だったが、断るわけにはいかなかった。
遠くであの男がうめいている。
(馬鹿だね。全部食っちゃって)
子供の頃、一時期毎日食っていたのは本当だが、いつも一皿分だけだ。
摂取しすぎると激しい腹痛に苛まれる。どれだけ腹が減ってても、馬鹿食いはしなかった。
ちょっとした嫌がらせのつもりで作った料理だ。不味いことはとうに分かっていたし、自分は慣れてしまったが、初めて食べる人間には耐えられない味だろう。
――オレのカウンセラーを気取るつもりなら、オレへの理解を見せなきゃね。
そんな思惑があったのは事実だ。しかし、
一口ぐらい食べる度胸はあるだろうと考えていたが、まさか全部食べるとは。
「‥‥‥やれやれ」
嘆息し、カカシはのっそりベットから起き上がった。
寝台の傍にある携帯ポーチからいくつかの薬丸を取り出し、掌で転がす。
(えーと‥‥あれに効く種類はどれだっけ?)
古い記憶を探り、カカシは部屋を出た。
イルカが使っている部屋は居間を間に挟み、向かい側にある。
台所に寄ってコップに水を入れたカカシは、イルカの扉の前に立った。一応ノックをしてみたが、返って来るのは呻き声だけ。――聞こえていないようだ。
カカシは躊躇せず、勝手に扉を開けた。鍵はかかっていない。
「イルカ先生?」
部屋の構造はカカシの所と同じだった。
ベットの上に転がる部屋の主に、カカシは足音もなく歩み寄る。
イルカは布団にしがみつき、苦悩する顔でうなされていた。
「イルカ先生、ちょっと起きて?」
意識はあるかと肩を揺すってみると、ぎゅっと閉じられていた瞼がうっすら開いた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい‥‥‥?」
搾り出すような声で返答するイルカに、カカシはなるべく自分の声が響かないように話し掛けた。
「お腹が痛いんでしょ。卑しい真似するからですよ。馬鹿ですねぇ。そんなにオレの信頼が欲しかったですか」
偽善者パワー全開で、後先考えずまっしぐら。――しかしまあ、その効果はあった。
「その体当たり精神。ある意味、尊敬に値しますよ。‥‥ひとまずはこれで良しとして下さい。オレも一応、環境の変化ってやつに戸惑ってるんですよ」
イルカはぼんやりこちらを見上げていた。話が通じているかどうか。
その背に手を回すと、服を通しても伝わる肌の冷たさに気づく。カカシは抱えるように上体を抱き起こした。
「ほら、これ飲んで」
口元に薬丸を持っていった。が、イルカは嫌がって口に入れない。
何かを口に含むことを嫌がっているらしい。――よほど不味かったのか。
仕方なく口腔の中に無理矢理指を入れ、薬丸を押し込んだが、
「あ、いた」
思い切り噛まれた。血が出るほど。
急いで引き出したが、薬丸を吐き出しそうになったので、その口を掌で押さえた。
「ちょっと‥目、覚ましてくださいよ」
反射的に暴れるイルカをベットに押さえつけ、カカシは弱った声でぼやいた。身体的にそれほど変わらない体だ。筋力の差はあるとはいえ、楽しい作業ではない。
(‥あ、水含ませないと)
口腔に入れたままの薬丸は、あのままでは飲み込めない。
しかし、意識をほとんど無くしながらも、イルカはなんとか逃げようと暴れている。
(‥まさか‥‥あれしかない?)
嫌な考えが頭を過ぎったが、考えていても仕方がない。
カカシは片手でコップの水を口に含むと、イルカの頭を押さえつけ、唇を合わせた。
「‥‥ぐ‥‥、‥‥‥ぅ‥‥‥っ」
もがくイルカの指の爪が引っかかる。痛い。さっきから噛まれたり引っかかれたり。こういったことは色気のある女としたいものだ。
「‥‥‥ん‥‥っ、‥‥‥」
鼻を鳴らし、イルカが口腔に入ってきた水を喉に通した。
頭を押さえる手の痛みを訴えるのか、カカシの手をしきりに引掻くが、薬丸を完全に飲んだことを確かめなければ離すわけにはいかない。
「ほら、口開けて」
もう一度、イルカの口に指を入れ、中を探った。
薬丸は無事に喉を通ったようだが、カカシは念入りに探した。腹痛は悪くすれば意識不明になるほど辛いものになる。そんなものを食べさせたのは自分だが、後始末をしているのだから勘弁して欲しいものだ。
「‥‥も‥‥、‥や‥ッ」
イルカが引っかかる声で訴えた。
奥まで指を入れすぎたのか、見れば目尻に涙を浮かべている。
息苦しさに紅潮した頬に、濡れた厚い唇。
(――へえ)
カカシは初めて、そういった目でイルカを見た。
色事に関しては、忍びの世界では男も女も関係ない。カカシもまた、抱かれることは願い下げだったが、処理役として同性を相手にしたことはある。
(そういうの、頼んだらやってくれるかな)
それほど性欲のある方ではないが、最近ご無沙汰だ。真面目なイルカが見せた僅かな媚態に、なんだか抱いてみたい気分になったが、
(あ、駄目だ。今回はそういう立場じゃなかったっけ)
大人のムードに物を言わせたり、階級を盾にして迫ることも無理だ。今の自分は、イルカのサポート役としてここにいるのだから。
やれやれと肩を竦め、カカシはイルカの体を横たわらせた。
ぐったりして意識が無い。大丈夫かな? と上着の裾から手を這わせ、腹を擦ってみたが、少し温かみが戻ってきていた。
手にしっとり馴染む肌に、ついいつまでも撫でていたが、名残惜しげに離す。
「‥ま、こんな奴ですけどよろしくね」
イルカの体に布団を被せ、カカシはぽん、とその肩を叩いた。
うみのイルカ。
けっこう骨のある男だ。
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