■ 熱くて 〜そこは陽だまり 2〜
今、俺の家にはカカシという雪男が住んでいる。
一番最初に泊まった時、家の中を雪だらけにされた。
せめて窓だけは閉めるようにしてほしいと頼んだら、また来ていいのだと勘違いしたらしく頻繁に訪れるようになった。痛い失態だ。
時々土産物を持ってくるが、アイスだったりそうめんだったり、スイカだったり。
本気で嫌がらせじゃないかと考えたが、カカシはいたって本気だった。
「もう寝ますか」
カカシは、ごく当たり前のように人の家で風呂を使い、ごく普通にベットの中に入ってくる。
湯を沸かしているにも関わらずわざわざ水風呂に入るので、普段から冷たい肌はさらに冷たくなり氷のようだ。その体にぺったりくっつかれるともう我慢ならない。
だが、イルカは耐えた。
彼に逆らうと、周囲に迷惑がかかる。だから、人身御供のつもりで黙って耐えつづけた。
しかしある日、ガタガタと異状に震える体。
今まで発熱しなかったのが不思議だが、とうとう風邪をひいた。
予想以上の高熱にハンテンをはおり、マスクをしたイルカはカカシに、もう来ないで欲しいと告げた。もう甘い顔は見せられない。自分は十分に耐えたはずだ。
カカシの返信を待たずに、ふらふらと帰宅につく。
数分前のことすら思い出せないほど朦朧とした頭で家につくと、薬を一気飲みして、もそもそとベットの中に入る。安アパートの壁は薄く、真冬はほとんど外と変わらない。ストーブをつけようかと思ったが、今はただ眠りたかった。
ガタガタと震えながら、イルカはむりやり眠りの中に落ちていった。
目が覚めた時、部屋の中が異常に熱いことに気付く。
ハンテンを着たまま眠っていたイルカも汗をかいていた。おかげで少し熱が下がったようだが、しかし、まるで真夏のような暑さだ。
いったいどうしたことかと顔を上げると――絶句。
(‥なんだこれ)
部屋中、所狭しと暖房器具が並んでいた。
この部屋どころか、アパート中暖められているのではないかと思う。いつから自分の部屋は電気屋になったのかと、イルカはぼんやりした頭で考えた。
いったいどれだけの金がかかったか。
(‥‥極端な人だなあ)
イルカは苦笑し、ベットの下で倒れている来客を見た。
だらだらと汗をかき、うんうんとうなされているカカシ。――演技ではなく、本気で苦しんでいた。寒いのが大好きな雪男には、ここはさしずめ地獄の鍋というところか。
(溶けて消えるかも)
ふ、と笑い、カカシの頬に触れてみる。さすがに温かい。
「カカシさん」
呼びかけて、揺すり起こそうとしたが意識がないようだ。
よくよく見ると脱水症状を起こしかけていてびっくりした。あわてて起き上がり、ベットにカカシを引きずり上げた。台所へ行って水を持ってくるが、うーんうーんと唸っているカカシの意識ははっきりしない。水を欲しがっているようだが、口元に持って行っても飲まない。
「‥‥〜〜」
仕方がない。これは緊急事態で、風邪がうつっても自分のせいではない。
コップの水を口に含み、イルカは口移しでカカシに飲ませた。
何度か繰り返しているうちに、がしっと後ろの頭をつかまれる。
「‥っ」
ぐいっと体を引っ張られ、いつの間にか体の位置が入れ替わっていた。
圧し掛かられて苦しい上に、ぬるりと口腔に入ってきた舌に「ん゛〜!!」イルカは大慌てになった。食いしばろうとする歯を指で開けられ、まだ下がっていない熱に抵抗もできず、好きなように貪られた。
やっと解放してもらい、呼吸を整えてカカシを見上げると、汗を滲ませ、瞳が欲情に濡れていた。
「‥‥‥続き、しちゃ駄目ですか」
ざらりとした声音で囁かれ、思わず真っ赤になったイルカはぶんぶんと首を振った。
「‥どうしても駄目ですか? イルカ先生だってその気になってるじゃないですか」
こめかみに、ねだるように口づけされて、再度強く首を振った。
振りすぎて頭がくらくらする。熱が上がったようでぐったりすると、カカシがため息をついた。
「ちぇー」
――ちぇーじゃない。
もう相手はできないと、もそもそ寝る体勢になると、カカシもぺったりくっついてきた。
「‥‥熱いんじゃないんですか」
訊ねると、うん、と頷くが、離れない。
眠気に包まれて意識が遠くなる。でもこれだけは言っておこう。
――溶けないでくださいね。
カカシは、うんと頷き、身を震わせて笑った。
○ BACK ○