□ 僕を呼ぶ声 2









 厄介な状況になったと思っていたが、それでも二三日もすれば帰れるだろうと思っていた。
 木の葉の里の中だし、火影の家に飛び込もうと思えば一時間もかからない。
 心のどこかでそんな風に希望を持っていたけれど、

 ――カカシに拾われてから実に五日が経過した。






(‥‥うう‥‥もう、パンは嫌だ‥‥‥)
 でん、と目の前に置かれた食パンに、イルカはうんざりしたように耳を下げた。
 生肉を食わされるよりははるかにマシだが、しかし馬鹿の一つ覚えみたいにどうして毎回毎回食パンとスープなのか。
対する家主のカカシは、乾し肉やフルーツを齧るだけだ。一応台所はあるが、一度も料理をしない。だからそんなに痩せてるんだとイルカは思った。
(‥いや、無駄な脂肪がないんだな)
 銀髪の少年は忍者として申し分のない体だった。足音や呼吸をほとんど立てず、犬の耳でも聞こえない時がある。
 イルカは大きなため息をつき、
(‥‥忍としてはエリートだって分かったから‥‥‥)
 寝台に寝転がって忍書を読むカカシを睨んだ。

(もう少し人間らしいところを見せてくれ‥!)

 イルカの疑心は、ピークに達していた。
 冷蔵庫とベットしかない部屋。他にも家があるらしく、これは隠れ家というやつらしい。エリートになると家をたくさん持てるのかと感心したが、きっとどの家もこんな風に殺風景に違いない。
 昼間は修行と称して演習場へ連れて行かれ、食事に風呂と続くともうぐったりだ。「そろそろ新しい生活に慣れた?」とある時恐ろしい質問をされたが、答える気力すらない。慣れるどころか疲れは溜まる一方で、きっともうすぐぶっ倒れる。役に立たないと分かったら、解放してくれるだろうか。
(‥まさか、用済みに消されたり‥しないよね‥‥?)
 もそもそ食パンを食べながら、イルカは暗雲広がる未来にため息をついた。
 この後は風呂に投げ入れられて即就寝となるはずだが、パタン、と本を閉じたカカシがベットから下り、適当に固めていた暗部の服を着用し始めた。
(‥‥?)
 その服を着るカカシを見るのは出会った夜以来だ。
 パチ、と手甲を身につける姿に、イルカははっと気づく。
(‥‥任務‥‥っ!?)
 思い当たった途端、急いでペットの下へと隠れた。情けないが、少年の任務になど連れて行かれたら自分なんて一分も生きていられない。
「ちょっとちょっと。なにその態度」
 ベット下に隠れていたイルカに、にゅっと手袋をつけた手が伸ばされた。爪先が尖っていて痛い。
(一人で行ってくれ!)
 引っ張り出されたイルカは死に物狂いで暴れた。
 カカシは呆れた顔をして、
「ご主人様が任務に行くのに、お見送りもなし?」
(嫌だ嫌っ、絶対行かな‥‥‥、‥‥‥え‥‥‥?)
 ぴた、と動きを止め、イルカは目を丸くする。――お見送り?
「そんなびびらなくたってまだ連れていかないよ。足手まといだもん」
(‥‥‥む‥‥‥)
 確かにその通りなのだが、はっきり言われると気分が悪い。
 ――しかし、行かなくていいのだ! 
 イルカはパタパタと尻尾を振り、いってらっしゃいをするように前足を上げた。
「‥‥現金だねえ」
 カカシは肩をすくめ、面を被った。そして、嬉しさ全開のイルカの頭をかるく撫で、
「ま、帰れるように祈ってて」
 軽い口調で言った。






 カカシが出て行った後しっかり鍵を閉められたが、命拾いしたイルカは上機嫌で室内を走り回っていた。調子に乗りすぎてすぐにへばってしまったが、
(一人で行ってくれて良かったぁ‥‥)
 心底ほっとした。
 すると、あの大きなベットは独り占めなのだ。日頃無体な修行(苛め)を強いられているのだから、今夜は我が物顔でのびのび寝てやろう。
 ぴょんとベットに上がり、イルカは顔にシーツをぐりぐり押しつけた。
 体を伸ばすと一緒にあくびも出る。閉じそうになる瞼に逆らわず、イルカはひと時の幸せを噛みしめようとした。
 が、
(‥‥‥‥‥‥)
(‥‥‥‥‥‥)
(‥‥‥‥‥‥) 
 ややあって、イルカはむくっと顔を上げた。
 眠そうな目が見るのは――玄関の扉。
(‥‥‥変なこと言ってた)
 夢に入りかけた頭が唐突に思い出したのは、カカシの言葉だ。出て行く時少年はなんと言った?
(帰れるように‥‥‥祈っててって‥‥)
 居残れる嬉しさに聞き流していたが、よくよく考えるとけして穏やかではない言葉だ。
(‥なんだろ。そんなに難しい任務なのかな。俺、Cの任務しかしたことない。‥火影様の直属になったら、いったいどんな任務をするんだろう。‥‥‥もしかして‥‥)

 ――人を殺したりするのだろうか。

 イルカは、まだ人を殺めたことがなかった。
 木の葉の里を守るためなら、忍者としてやらなくてはならない時もあると分かっているけれど、与えられる任務は平和なものばかりで。
(‥‥‥平和‥‥‥)
 そう、平和だ。
 自分のいた所はあんなに平穏なのに、カカシと初めて会った場所は血と緊張に包まれていた。まるで別世界のように。でも、けして知らない場所ではない。
 ――あそこもまた木の葉の里だ。
(‥‥‥‥‥‥)
 カカシは、何処へ行ったのだろう。
 布団から顔を出し、イルカはベットから下りた。床が冷たかったが、玄関の前まで歩き、そこに腰を下ろす。
(‥別に、帰るまで待ってるわけじゃないぞ。ちょっと気になるし、考え事したいから起きてるだけ)
 四角い扉は面白くないほど動かなかった。一人きりの部屋は耳が痛くなるほどの静寂に包まれていて、イルカは初めて自分が一人になったことに気づく。いつもならカカシが必ず近くにいた。逃げるのに邪魔だと鬱陶しがっていたが、一人だけの空気にだんだん心細さを感じる。いっそ寝てしまおうかと思ったが、妙に目が冴えてしまった。
(‥いつも皆が寝てる時間に、あいつは任務に行くんだ)
 もしかして、イルカが眠っている間にこうして出かけていたかも知れない。カカシは気配がしないから。エリートになれるくらいたくさん修行と任務をつんだ少年だから。
(‥‥‥それに比べて俺は‥‥‥)
 アカデミーでは悪戯の限りを尽くしたが、額宛をもらってからは生き方を改めたつもりだった。一人で歩いていける強さを身につけようと頑張り、自分なりに成長してきたつもりなのに―――所詮はつもり止まり。
(‥‥僕、全然駄目だ‥‥‥)
 イルカはぺたりと床に伏せ――あっと気づく。
(‥‥俺‥また僕って言っちゃった。‥‥‥なんでだろ。まだ時々言っちゃうんだよなあ)
 僕から俺へ。
 子供時代への決別をこめて言い方を変えたが、ふとした時に「僕」と言ってしまう。
 理由は、少し分かっていた。
 ――自分を僕と言う時は、心細くなっている時だ。
 今がその状態であることを認めるのはなんだか癪だが、事実だから仕方がない。
(‥‥駄目だ。眠れそうにない) 
 イルカは寒さにぶるりと震え、ベットからシーツだけくわえて引っ張ってきた。玄関の前に丸めてもぞもぞと中に入り、視線は変わらず玄関を見上げる。
 黒く大きな目はずっと扉を見詰めていたが、
 いつの間にかその瞼は閉じられていた。






(‥‥は‥‥っ)
 小さな物音に、イルカはぱっと目を開けた。
 顔を上げると、のぞきこむカカシの顔がある。
「お前、寝相悪いね」
 からかう声に、イルカは跳ね起きた。――帰ってきた!
 思わず尻尾を振ると、カカシが少し意外そうな顔をして、
「メシ持って帰ってないよ?」
 両手を広げて見せる。その動作に、ぽたりと何かが顔に落ちてきた。イルカの鼻筋についたそれは赤黒い玉で、すぐには分からなかったが、
(‥‥血‥‥っ)
「あ、ついた?」
 カカシが袖で鼻を拭ってくれた。しかし、もっと濃い血の匂いがする。
(怪我してる‥っ)
 イルカは腹の底が重くなった気がした。よく見れば、肩から背中なんてざっくり切れている。深くはないようだが、あんなに大きな傷は滅多に見ない。
 どうしたらいいのか分からずうろうろしていると、カカシは早々に浴室へ消えた。
 水音が聞こえてくると、
(‥手当て‥っ)
 イルカはベットの下にもぐりこんだ。
 家財道具の少ない家だが、忍道具がベット下にまとめられていた。その中には一応救急箱もある。くえわて、ずるずると引っ張り出した。
 犬の手で小さな取っ手を開けるのは難しかったが、苦戦しながらもなんとか開ける。
 同時に浴室からカカシが出てきた。
 腰にタオルだけ巻いて、ほとんど濡れたままベットへ歩き、ぼすんと倒れこむ。
 イルカは慌ててベットを覗いたが、意識を失ったわけではないようだ。
「あ〜‥‥疲れた」
 目を瞑ったカカシは、どうやらこのまま眠ろうとしているようだ。
(傷の手当て、全然してないのにっ)
 イルカはわふんっと鳴き、カカシの目を開けさせる。薬箱をばしんばしんと手で叩くと、
「えー‥? いいよ、明日で」
(明日でいいわけないっ) 
 のんきなカカシの言葉に、イルカは不器用に包帯やら消毒液を引っくり返した。なんとか手当てをさせようと奮闘するが、
「見た目ほど酷くないからいいって」
 カカシは面白そうに笑う。そして、ついと手を伸ばし、
「それより寒いからさ――湯たんぽ代わりになってよ」
 首根っこをつかまれ、あっという間に抱きこまれた。
(‥冷たいっ) 
 少年は水を浴びてきたようだ。寒いならどうしてお湯にしないのか。
 冷たい体を温めてやりたくて、イルカは自分からぺったりひっついた。寒さが伝わって震えが走ったが、しばらくすれば水の冷たさは消えた。けれど少年は元々体温が低いらしく、なかなか心地良い人肌にならない。
(布団‥)
 イルカはさっき玄関の前まで持っていった布団を思い出し、そっとカカシの腕から抜け出た。ベット上まで引っ張り上げるのは大変だったが、裸同然で眠るカカシに被せるとほっと人心地つく。
 カカシの横にもぐりこみ、再びぺたりとくっついたイルカはしみじみ思う。

(こいつの生活って壊れてる)

 エリートだから、では説明しきれない。いくらなんでもカカシの生活は破綻している。
(‥もっと人並の生活をしなきゃ)
 任務をしてるんだから貧乏というわけではあるまい。明日からはちゃんとした食事も取らせたい。殺風景な部屋にはコタツも必要だ。あの幸せなぬくぬく感を知らないなんて信じられない。
(‥‥ちょっと温かくなったかな)
 ふんふんと顔に鼻を寄せると、カカシの手が背を撫でた。起きていたのかと驚くと、カカシがうっすら目を開き、
「ねえ‥もしかして、オレのこと待ってた?」
 夜に消されてしまいそうな小さな声で問うた。
 まさにその通りだったが、こんな至近距離で見詰められると恥かしくなった。落ちつきなく尻尾を動かすと、カカシは小さく笑って目を閉じる。
 聞こえてくるわずかな寝息に、イルカはクゥと喉を鳴らした。
 お腹が空いたわけじゃないのに、
(‥‥なんだろ‥‥‥)

 ――心が妙に切なかった。





***





 次の日の朝、イルカが目を覚ますとカカシはすでに起きていた。
 傷の手当てはしたのだろうか。薬箱を見ると、昨日より少し中身が減っている。念のため箱を引っくり返して調べていると、
「もう手当てはすんだよ」
 カカシがやってきて薬箱を片付けた。顔色はいいとは言えないが、いつも通りだといえばそう見える。そして、でんっと目の前に出されたのは御馴染みのスープと食パン。
 いつもなら、これを食べたら修行へ直行だが、
(‥‥どうしたんだろ)
 食べ終わったイルカは、ぺろと自分の口を舐めながら首を傾げた。
 カカシはベットに座り、おもいきり寛いでいた。不思議そうな視線に気づいたのか、カカシはちょいちょいと手招きをする。
 近付いていくと、わしっと抱き上げられた。
「今日は修行はなし。ごろごろする」
(修行に行かなくていい‥‥!?)
 カカシに拾われてから連日のように辛い目にあって来たが、まさかオフの日があるとは。
 イルカは嬉しさにちぎれそうなほど尻尾を振った。
 宣言通り、カカシは本当にごろごろしていて、昼には「たまには外で食う?」と夢のようなことを言う。
 ――スープとパン以外のものが食べられる!
 イルカは歓喜したが、
(ちがうちがうっ)
 すぐに頭を振った。恐ろしいことに問題点がずれていた。注目すべき点は[外に出られる→脱出]だ。
(よし、よーしっ、逃げるぞ〜っ)
 家を出る準備をするカカシに、イルカは意気込むように足踏みしたが、
「じゃ、行こうか」
 覆面をするカカシが目を細めて言った。いつもなら荷物のように扱うのに、
(ちょっと気持ち悪いかも)
 どうして今日はこんなに優しいのか。
 多少不気味に感じたが、悪いことではない。イルカはすぐに考えるのを止めた。
(外だぁ‥っ)
 久しぶりに普通の人間が歩く光景を目にして、イルカはスキップしたい気分になった。そして、こうして並んで歩くと、カカシはどこにでもいるような少年だ。

 ――普通の友達になるんだったら、いいのに。

 イルカはそんなことをぼんやり思った。
 えらい目にあわされたが、これも縁だ。そもそもの原因も自分にあるし、
 正直、なんだか憎めなかった。
(‥‥何も、すぐに逃げなくても‥‥)
 元に戻れば、暗部でエリートのカカシと自分との接点なんてまるでない。それに、カカシは忍犬が欲しかったわけで、友達が欲しいとは思っていないかも。
 友達が欲しくないなんて言う人間がいるわけないとイルカは思っているけれど、カカシの住む世界を見て考えは少し変わった。
 このまま別れたら、きっともう会えない。
 歩み寄る勇気も――きっと出ない。
(‥もう一週間近くも帰ってないけど‥‥)
 班のみんなや先生に迷惑をかけてしまうと分かっていても、イルカにはふんぎりがつかなかった。行き交う人込み。カカシは隣にいるけれど、逃げ出すには絶好のチャンス。捕まえられるかも知れないが、火影の家に飛び込めばこっちのものだ。
(‥‥どうしよう‥)
 イルカは奇妙な緊張を持ちながら迷った。
 ちら、とカカシを見上げると――その歩が急に止まる。
 どうしたのかと一緒に立ち止まると、「よ、カカシ」前方から見知らぬ男が現れた。
 大人の男なのにカカシと知り合いなのか。
 戸惑っていると、カカシは表情を変えず、軽く手を上げて挨拶をした。
 男は普通の男のように見えたが、足取りが忍のものだ。仕事の仲間なのかとまじまじ見上げていると、
「お? その犬‥‥」
 男はイルカを見下ろし、顎に手をやった。
「この間拾ってきたやつだろ。会合に持ってきた。‥なんだ、まだ生きてたんだな。すぐ死ぬかと思ったが、ということは見込みがありか」
(‥‥‥生きてたって‥‥)
 遠慮のない言いように、イルカは耳を震わせた。
 忘れていたわけではないが、確かに最初そんな事を言われた。
 男は、あの晩にいた暗部の男なのだろう。
(あいにくぴんぴんしてるよっ) 
 死んだと思われていたことがちょっと悔しい。イルカは挑むように仁王立ちするが、
「いや、違うよ。忍の才能はあんまりぱっとしないからさ」
(ぱっとしない!?)
 カカシの台詞に目を剥いた。
 そりゃあエリートのカカシとは差があるかも知れないが、自分ではまだまだ成長過程だと思っている。
 憤慨だとカカシに抗議したかったが、ひょいっと抱き上げられた。
 間近で覗き込む右目が笑い、
「だから愛玩用にしようと思って」
「愛玩?」
(‥‥‥愛玩‥‥!?)
 イルカはぎょっとした。
 カカシはぴろぴろとイルカの耳を触り、
「そ。どうも任務に連れて行っても役に立ちそうにないから、すっぱりペットに転職させようと思って」
(‥すっぱりペット‥‥っ!!)
 カカシの腕の中で、イルカはかちこちに固まってしまった。
 自分は忍だ。いまだ悪戯もするし下忍だが、一応忍者としてのプライドは持っている。
 犬になるつもりはないが、忍犬ならまだしも――愛玩、ペットとは!
(‥‥ひ、ひどい‥‥っ)
 大きなショックに打ちのめされ、次いで怒りがふつふつと湧いてきた。今まで出なかったのがおかしいくらいだ。そうだ。自分には怒る権利がある。なにがペットかっ。将来の木の葉の優秀な忍候補をつかまえてっ。
「じゃ、オレ買物あるから」
 イルカを小脇に抱え、カカシは歩き出した。
「首輪買わないとね〜」
 上機嫌なカカシの言葉に、
(絶対逃げる‥‥!!)

 イルカはついに決心した。








 カカシの警戒を解くために、イルカは逃げ出そうとする素振りを一切見せなかった。
 実際、外で自由に行動できる嬉しさにそれは演技だけじゃなく、カカシに食べたい食材などを指して買わせるのは楽しかった。
 カカシにまともな食事を作らせようと考えていたことが実現できると嬉しかったが、
(‥‥はっ、いかん。逃げなきゃ‥‥っ)
 横を通る散歩中の飼い犬を見て、はっと我に返った。
 カカシは店の人間と話している。そんな接触に慣れていないのか、カカシは頭を掻きながらイルカが指差した魚を吟味していた。はたして分かっているのか。
(今がチャンスだ)
 カカシの足元へ駆け寄って、その魚じゃないと言いたい気持ちもあったが、ペットとして扱われる自分の未来の方が重大だった。
 逃げ切れるだろうか。
 人込みは多いけど、相手はエリート。すぐに捕まえられるのでは。
 捕まったら、叩かれるだろうか。
 怒られるだろうか。
(‥‥そっと‥‥)
 破裂しそうなほど心臓をどきどきさせ、イルカは少しずつカカシとの距離を取った。
 通行人が間に入ると、カカシの姿が見えたり消えたりする。
 十分な距離を取ったら、走り出すのだ。
 ああ、どうかこっちを見ないで欲しい。
 緊張に目が回りそうになったが、
(――今だ!)
 イルカは弾かれたように走り出した。
 人込みを駆け抜け、目指すのは火影の家の方角。
 もう無我夢中で、カカシのことを確認する余裕などなかったが、
 一瞬だけ。

 ―――――。

(‥‥‥っ) 
 ざわめきの中、背中に声をかけられたような気がした。
 名前はつけられていない。でも、確かにカカシの声で。
 イルカは頭を振った。
 
 振り返ってはいけない。
 逃げるんだ‥‥っ。


 すべての迷いをふり切り、イルカは全速力で駆けていった。











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