□ タイトルはない 5










「あいつが帰ってくるから、アンタとは別れます」 

 そう言うと、あの人は「そうですか」とだけ答えた。
 泣くかな?と実は思っていた。
 自惚れていると言われても仕方がないが、これまでの人生の中、すんなり終わった別れ話はない。
 さて、この人はどうでるだろう。
 女が帰ってくるのは事実。別れる気持ちも本物。
 ただ、少しばかりイルカの反応が気になった。
 代わりとして、ずいぶん長く付き合った人間だったから。

 なんとなく落ちた沈黙に、カカシは謝罪の言葉を思い出した。
 今更な気もするが、なんだかそういう雰囲気だ。

「‥ごめんね?」

 疑問系の謝罪を口にすると、その言葉にイルカが反応した。



「‥‥‥どうしました?」

 肩が震えている。
 泣いているのかな、と覗き込むと、
 ――――イルカは笑っていた。







 ―――もう、いいんです。

 おかしくてたまらないと笑った後、イルカは言った。
 解放してくれるなら、もうそれだけでいい。

 あっさり帰っていったイルカに、なんとなく拍子抜けを感じた。
 もっと面白い展開を期待していたのに。
 たとえば、別れたくないとか。
 たとえば、俺を選んでくださいと喚きだすとか。
 
 まあ、言われたとしても、アイツが戻れば用無しだけど。

「ま、‥‥こんなもんかな」

 無意識に、独り言が出た。
 よくよく考えれば、願ってもない平和的な終末だ。
 あの人も、こんな酔狂によく付き合ってくれたもんだ。
 昇格の際は色々手助けしてやってもいいけど―――。

 嫌がるだろうなぁ。
 
 潔癖症のイルカ先生。
 風呂好きの身体は、家にいる時はいつも石鹸の匂いがした。
  
「‥‥‥寒」
 
 春先の冷たい風が吹いた。
 今夜はあの人の家に居座れない。
 しばらく帰っていない自宅を思い出し、もうちょっと後に言えば良かったかと思った。
 考えたら、むしょうに抱きたくなったが、それはさすがにかっこ悪い。
 人肌が恋しい。


「‥アイツ、早く帰って来ないかねぇ‥‥」


 おあずけは苦手だ。









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2003.03.21

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