■ ヨネ 〜Are you Hungry? その後のちょい話〜
ふと目が覚めた。
しんと静かな、誰も動いていない夜明け前。色んな所で、朝を迎える準備が始まる。
イルカもまた早起きがしみついた身だ。
しだいにはっきりする意識で、さえずる雀の声を聞く。
もそりと体を動かすと、隣の男の布団を奪う形になった。むきだしになる相手の二の腕には黒い刺青が見える。イルカはそっと布団をかけ直した。
(‥疲れてるくせに)
昨夜、長期任務から帰ったばかりの上忍はイルカの家に直行し、そのまま寝付いた。
巻き込まれたイルカは共に夜を明かし、いつものようにすぐに起き上がれない。
任務明けの彼は少し粗暴で困る。
ふわふわの銀色の髪に触れ、イルカはため息をついた。
このままもう少し眠りたい。目をつぶり、イルカはぽつりと呟いた。
「ヨネは元気かなぁ‥‥‥」
思わず出た、無意識に近いつぶやき。イルカにとっては何気ない言葉だが、
「――誰、それ」
眠ってるとばかり思っていた男が反応した。
「‥あ、カカシ先生。おはようございます」
「おはよ。そんなことより、ヨネって誰」
「‥‥‥聞こえましたか」
イルカはまずった顔をした。眠そうな色違いの目は、そんなイルカの仕草をつぶさに見ている。
朝から機嫌を損ねるのはまずい。イルカは仕方なく正直に答えることにした。
「‥以前拾った‥雀の名前ですよ」
「すずめ?」
カカシは眉を顰めた。考えるように目を瞑り、
「ああ、あのうるさいヒナ。――アンタ、あの雀に名前つけてたんですか」
「‥‥‥はい」
呆れた、という口調に、だから言わなかったんだとイルカは思う。
慣れない世話にカカシの手まで借りた雀の雛の話を、カカシはあまり好まない。長く生きるわけではない、小さな生き物に情をかけるのを嫌がる人だ。
「ちゃんと飛び立ったんだから大丈夫ですよ」
布団を被りなおし、カカシはあっけらかんと言った。
――飛び立ったというよりは、カカシが放り投げたと言うほうが正しいが。
「‥そうですね」
イルカは苦笑しながら同意した。
森にとけこんだ雀は、きっと元気で飛び回っている。ただ、雀の声を聞くとふいに思い出すのだ。身を震わせて餌をねだっていたヒナの姿を。
「納得してませんね」
「そんなことは‥」
言いよどむと、カカシは大袈裟なため息をついた。
「アンタね〜いいかげん過保護なんですよ」
「―――」
イルカは胸を突かれた気がした。
過保護。カカシが言いたいことは――分かる。けれど、これは性分なのだ。
胸にもやもやした黒いものが生まれ、押さえ込むようにイルカは丸まった。
「イルカ先生」
背を向けていると呼びかけられる。嫌だ、返事をしたくない。
「イルカ先生、ごめんなさい。謝るから離れないでよ」
距離を埋めるように、体温が触れた。
「アンタのお人好しにつけこんでるのに、墓穴掘りました」
「‥つけこんでるんですか」
「これからもそのつもりですよ〜」
背中に体重をかけられ、重さに笑いがこみ上げてきた。
喉を鳴らして笑うと後ろ髪をかきあげられ、うなじに唇が押し当てられる。
脇腹にしのび入る冷たい手に、腹部に力が入る。妖しい動きを見せる手に、イルカはあわてて身をよじった。
「カカシ先生‥‥もう起きる時間ですよっ」
「嫌ー」
「‥だ‥‥」
「仲直り、仲直り」
冗談のように囁かれ、イルカは抵抗をやめた。
一応、カカシなりの気遣いなのだ。うまいこと利用した、という印象もあるが、
(ま、いいか‥)
遅刻するのは心苦しいが、今は自分も――仲直りしたい気分だ。
あたたかい布団の中で、
イルカは大切な人が傍にいる幸せを噛みしめた。
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