003:荒野









 懐かしい光景がある。
 もうずいぶんと見ていない、ただの地平線。
 赤く焼けた空に、荒れた大地。
 風は煙と血の匂いを運び、オレはぼんやり立っている。
 視界を遮るものは何もなくて、ただ広かった。
 ああ、恋しいなぁ。
 もう一度あそこへ帰りたいもんだ。



 夢の中だけ、オレはその荒野へと帰った。
 誰にも邪魔されない。
 眠っていても、本当に眠っているわけじゃない。
 防衛の感覚はそのままに、半分だけ意識を飛ばす。彼の地へ。
 行きたくなったら、何処ででも寝る。
 任務中でも、郷愁の欲求には逆らえない。
 それに、荒野の夢を見るオレを起こそうとする人間はいない。
 荒野の風はオレを高揚させ、時々本物の血の匂いを嗅ぎたくなる。
 そんな口実を与えてくれるというのなら、オレを起こせばいい。
 紅の空を見上げて、ため息をつく。
 今日は一段と気持ちがいい。ガキたちの任務があったが、もうしばらくここにいよう。
 

 ―――起きろ!


 声は唐突だった。
 当てられた気迫に、夢は一気に遠ざかり、うっすら右目を開くと、

 目前に、仁王立ちする中忍の姿があった。
   





 黒髪の中忍は、ちゃんと子供たちの任務を見てくれと言い残して去っていった。
 歩き方から、ずいぶんと憤慨しているのがよく分かる。
 任務中に居眠りなんて、あの男にしてみれば不謹慎極まりない、といったところか。

 あ、やり損ねた。

 自分から荒野を取り上げる無作法な人間には、理不尽な刃の報復をと考えていたのに。
 あまりに強烈な目覚めの声に、うっかりしていた。

 起きろ、とは――。


 怒りのかわりに笑いがこみ上げて来た。
 久しく聞いていない命令系だ。中忍風情が。
 なんて魅力的な度胸。
 

 イルカ先生、イルカ先生。
 アンタは本当に面白そうだ。










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2003.03.24

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