005:釣りをするひと
よけいな横やりが入ったらしく、中忍が面白くなくなってしまった。
義務的なことしか言わなくなった口。
死んだような能面な顔。
実に気に入らない。
今更知らん顔したって、もう無駄なのにねえ。
一応、いろんなネタで釣ってみた。
提出の書類を真っ白で出してみたり、
公然の前で冷やかしてみたり。
だが、生憎とすべて不発だ。
怠惰ではもう釣れそうにない。プライドを傷つけるのも無駄。
力ずくで干渉してもいいが、
今はまだ、この始まったばかりの駆け引きを楽しみたい。
さあて、
次の餌は何にしようかね。
ああ、つまらない。
つまらない。
誰の忠告を受けたか知らないが、中忍の能面は一向に剥がれない。
同じ表情ばかりだと、記憶が薄れてくる。
なんだか、もうどうでもよくなってきた。
思えば、あの中忍を釣ろうと無駄な時間を使いすぎた。
ちっとは真面目に教師やらないと、
今日も暴走したガキどもがヘマをやらかした。
庇って怪我をしたオレを髭男が笑いやがる。
頭にくるが、仕方ない。
監視役なんだからねぇ。
だが、怪我の功名と言うべきか。
ろくに手当てもせずに報告書を出しに行くと、
中忍の能面が取れた。
「手当てを」
腕をつかまれ、医務室へ連れて行かれる。
医療班がいたが、立ち去ろうとする中忍を引き止めた。
――――アンタがやって。
告げると、その顔はたちまち曇った。
今頃、
自分のヘマに気づいたらしい。
釣れた、釣れた。
キズの痛みも、不思議と心地良い。
今度からはこの線で行こう。
よろしくね。優しいイルカ先生。
○ BACK ○
2003.03.26
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