008:パチンコ









「オレに優しくしてください」


 だらだら血を流しながら、あの男は真顔で言った。






 運が悪かった。
 不慮の事故から、あの男にキズを負わせてしまった俺は憂鬱だった。
 まずい負い目を作ってしまった。

 しかし、すまないとか、悪かったとかは思うまい。

 完全にハメられた。








「ね、イルカ先生。エッチさせて?」

 今日もセクハラの嵐だ。

 大したキズではないだろうに、カカシはわざわざ一週間の休みを取った。 
 その間の身の回りの世話を、[加害者]である自分がすることになってしまったが、
 ―――この男はつくづくおかしいと思う。

 分かっている。
 この男が自分を面白がっていることは。
 遊びたくて遊びたくて仕方がないのだろう。
 そのために、わざわざ怪我すらする、ちょっと頭の悪い人なのだ。
 関わって得することなどないだろう。
 むしろ、寿命を縮めることになりかねない、危険人物だ。

「いいでしょ、減るもんじゃないし」

 初めて、写輪眼を見た。
 細めると、その赤い色がさらに濃くなるような気がする。
 直視すると、飲み込まれそうなので目は合わせない。

「火影様に訴え出ますよ」 

 俺にできるのは、後ろ盾を利用してひたすら逃げることだ。
 ふーん、と笑うカカシの余裕が―――嫌だ。

 いい大人のくせに、非常識きわまりない性格破綻者。
 エリートか何か知らないが、いったいどんな育ち方をしてきたのか。
 


「あ、イルカ先生。なにこれ」


 暇を持て余し、勝手に人の荷物を探る上忍が言った。
 掃除の手を止めて振り返れば、カカシの手にはパチンコ。

 昼間、授業中に子供が悪戯をしたので取り上げたものだ。

「このゴムじゃ、殺傷能力はないですよ」

 パチンコを観察しながら真面目に言うカカシに、「オモチャですよ」と説明した。

「オモチャ? 何に使うんです?」

 質問は意外に続けられた。
 パチンコを差しだしてやり方を見せろ、というカカシに、俺はしぶしぶやってみせる。
 子供の遊びだ。
 石や消しゴムを飛ばして、的に当てるだけのこと。
 
 やってみせると、「へえーっ」とカカシが感心した。
 そのあまりの興味ぶりに、これまで見たことはないのかと聞くと、

「子供のオモチャには触ったこともありませんねぇ」

 大人の玩具なら知ってますがと、茶化して笑った。


 一言多い人間だ、と思った。
 が、

 
 さすが、性格破綻者。
 真っ当な育ち方はしていないだろうと思っていたが、かなり荒んだ子供時代を送ってきたようだ。
 そうか。



 この人は―――、そんな子供の遊びも知らないのか。










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2003.04.01

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