012:ガードレール









 見透かされた。
 興味―――そう、確かに俺はこの人に興味を抱いていた。
 消えて欲しい。
 もう関わらないで欲しいと思っていたけれど、
 黒い火のような彼の魂に――きっと、いつの間にか魅せられていた。

 子供のオモチャも知らない、肉欲や暴力でしか他人と交わることを知らない人。
 違うなら否定しろ。
 他にやり方を知っているというのなら、見せてくれ。 

 言葉や、心で繋がりあう絆。
 その方法を、自分は知ってる。
 たくさんの信頼できる仲間たちから、それを学んだ。
 カカシにもそれを、
 ―――教えてやりたいと思った。

 笑ってくれ。

 互いに違いすぎるからこそ、理解しあえると思った俺を、
 

 いくらでも笑ってくれ。










 深夜の受付室。休憩所で始まった行為。
 人が来ないのがいっそ不気味なくらいだ。
 この人はまったく遠慮がなく、服を破りかねない勢いで恐ろしい。

「あ、何もしなくてけっこうです。出来ないだろうし」

 竦んだ身体を、固い手でまさぐられた。
 いやらしい。なんて、卑猥な男。
 その長い指が、恥かしげもなく濡れた音を出す。

「意識はまだ飛ばさないで。ちゃんと全部見てくださいよ」

 気持ち悪さに、涙が出た。
 性急に入り込んでくる熱い塊は、まぎれもなく異物。
 ゆっくりと身体を揺すられ、畳で背中が擦れる。
 痛みで、現実感が増していく。

 こんな所で、とうとうこの男と交わってしまった。
 

 獣だ。
 この男も―――俺も。


 





 マグマに呑まれたような情事の後、
 解放された俺はのろのろと服を着た。
 何も言わない男から離れたくて、痛む体で外へ出る。
 無人になる受付のことなんか考えていられない。
 

 見えたものなど、何もない。
 この男の見せた世界には、何もなかった。
 ただ空虚なものが、果てしなく広がっていただけ。

 あの男は、いつもあんな所にいるのか。



 
 あてもなく歩いていると、
 白いガードレールが目に入った。
 向こう側は斜面。
 覗けば、真っ黒な深い溝が口を開けていた。


 飛び越んでみようか。




「―――壊すくらいなら、もう一回やらせてくださいよ」


 
 声にゆっくり振り返る。
 上着を持って、カカシがそこに立っていた。
 
「はい、これ着て」

 かけられる上着。
 肩に触れられて、びく、と身体が震えた。
 勝手に、体が震えてくる。


 馬鹿だった。
 いったい、どこから判断を間違ったのか。


 入り込んでいい世界では――無かったのに。



「イルカ先生、そんなに怯えないで」

 ちゅ、ちゅっと、愛しそうに何度もカカシの唇が降ってくる。
 ぎゅっと抱きしめられて、眩暈がした。

「こっちも慣れれば楽しいです。オレが道案内してあげるから」


 そうして、どこへ連れて行くというのか。
 行く先を教えない男は、
 まるで死神に見えた。










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2003.04.02

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