020:合わせ鏡









 イルカを戦場に置いてきた。
 
 後方で呼び止める声が聞こえたけれど、わざと無視した。
 わざと戦闘激区へ誘導して駆け抜けたことによって、伍の部は自分の他に帰ってきた者はいなかった。
 任務は無事に終わったが、払った代償は大きかった。
 他の忍たちが悲痛な顔をする中、オレは何も感じない。
 アカデミー教師の彼は忍の間でも人格者として人気があり、
 それを見殺しにしたオレはきっと批難されるだろう。
 でも仕方ないじゃない。

 みんな同じ顔だったんだから。




 果てを見せたくて任務に連れ出した。
 そして、望んでいた赤の色。
 血に染めることに成功したオレは歓喜したけれど――見えなくなった。
 実際汚れてみると、他の忍と区別がつかなくなったのだ。
 こっちの世界じゃ、全員同じ顔。いちいち覚えてられない、無機質な顔。
 
 ―――なんだ。あの人もその程度か。

 だから置いてきた。
 声は聞こえたけど、もうどれがイルカか分からなかったから、捨ててきた。
 もしかして死んだかも知れないが、もういいさ。
 どいつもこいつも、同じ顔。
 まるで、合わせ鏡のようだ。


 

 その時、ざわめく声がした。
 視線を転ずれば―――そこには伍の部の忍たち。
 ――あ、生きてた。
 森からぞろぞろと出てくる仲間たちは、悲惨なほど疲労していたが生きている。
 よく生き残れたもんだと感心していると、
 一人の忍が、足を引きずりながらこっちへ来る。
「‥まだ生きてる仲間がいるのに‥っ、どういうつもりですか!」
 びりびりと脳天に響く怒号。
 その男は激情を隠そうとせず、オレを睨みつける。
 ――この人、イルカ先生だよ。
 オレは少し間抜けな顔をした。
 同じ顔だらけ。その中で、ひとりだけ違う顔。

 血だらけなのに―――。



 任務は成功した。
 それなのに、胸に染み渡るのは言い知れぬ敗北感だった。
 甘くみてました。
 アンタは、本物だよ。



 ―――オレの負けです。










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2003.04.13

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