021:はさみ









 もう駄目だと思った。
 助けに戻った所で、所詮自分は中忍だ。
 しかし、だからこそ油断はない。
 それこそ形振りかまわず、生に執着した。
 任務達成こそが忍の存在意味。
 だが、ここで死んで何になるのか。
 写輪眼のカカシに依存していた上忍たちを一喝し、
 敵忍の不意をつく逃走経路を考えた。
 上忍たちの協力のもと、なんとか生還できたが、それでも失った命は多い。
 



 最終的に任務は成功したが、状況は惨憺たるものだった。
 比較的傷の少ないイルカは医療班の手伝いに回される。
 苦痛の声を上げる仲間たちの手当てを黙々と続けていたが、ふと気付く。
 ――カカシがいない。
 先ほど激情に任せて怒鳴りつけてしまったが、彼は何も言わなかった。
 上忍を叱責するなんて、冷静になって考えれば問題だが、その行動を咎める者はいなかった。
 今回の任務においてのカカシの異常行動は、全員が知るところだ。
 しかし、任務を成功させた功績のほとんどは、カカシの技量によるものだ。
 彼もまた、無傷ではなかったはず。



 医療箱を持ってあちこち探しまわると、木の陰でカカシを見つけた。
 傷の手当てを、自分でしている。
 だが、腕を痛めているらしく、その応急処置は傍目から見ても大雑把だ。
 傍に行こうとすると、他の忍が声をかけてきた。
 ――あれは人の癒しは受けない。
 手負いの獣に近づかないほうがいい、と囁く声にため息をつく。
 それは無理だ。
 そう言われて放っておける自分で無いことは、もう分かっているから。
「代わります」
 その傍に座り、医療箱を置いた。
 白い包帯を出すと、
「必要ないですよ。自分で治しますから」
 手当てを断られる。
 自分で、どうやって治すというのか。
 無視して彼の腕を掴んだ。
 包帯の巻き直しをしようと切るためにハサミを取り出すと、
「いらないって」
 軽く弾かれた。
「―――‥‥っ」
 声は出なかったが、手元の狂ったハサミの刃が掌を傷つける。
 赤い新たな血が滲み出ると、
「あ〜、しつこくするからですよ」
 出血する手をカカシが掴んだ。
 強く引っ張られ、傷口を躊躇いなく舐められる。
 悪びれない人。
 だが、もう、そんな脅しでは怯まない。
 再度、カカシの傷に手を伸ばし、手当てを始めた。
 今度は、カカシもあきらめたようだ。
 ぱっくり開いた傷口を覗きこみ、男の鼓動を確かめる。
 生きている。
 当たり前のことだけど、改めて実感した。



 この世界は本当になにもないけど、
 それは自ら目を瞑っていたから。
 静かに見渡せば、たくさんのものがあった。
 誰もが「生きたい」と足掻いていた。
 ―――では、この男は?
 理解できなくてもいい。
 ただ、知りたい。


 カカシのことを、知りたい。










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2003.04.13

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