028:菜の花









 山賊は生命力が強く、群れで動くのでしつこい。
 一日かかるかな、と思っていたが、意外に早く片付き、陽が沈む前に任務は終了した。
 しかし、返り血で汚れた体は、陽の下を歩くには相応しくない。
 これで里へ戻るのはまずい。
 犬の面の男は、夜になってから帰ろうと時間つぶしを決めた。
 里の傍にある登山に身を隠し、高揚した体を休ませる。
 手入れの行き届いた階段と、草花が目に入った。この辺りは参拝者が時々上がってくるが、夕刻ならば問題ないだろう。
 赤い太陽の光に、菜の花が揺れていた。
 夕焼けの中だと、体の返り血も目立たない。
(‥えーと、何人切ったっけ?)
 帰って報告書を書かなくてはいけない。
 男は思い出そうと頭を捻ったが、集中力がもたなかった。
「‥‥なんだかねぇ」
 つまらない。
 最近、とくにつまらない、と男は頭を掻いた。
 仕事は仕事だ。任務とあれば何でもする。それが忍であり、暗部だ。
 疑問は抱いても命令には従ってみせるけれど―――この殺伐とした世界もけっこうしんどいものだ。
(‥‥年かな?)
 面の下で欠伸を殺し、男はお堂に視線を向けた。
 菜の花に囲まれたお堂は、あまりにも平和で、世離れして見えた。
 神仏をまつわるお堂なんか、これまで近づいたことすらない。
 どうも相性も悪いようだと敬遠していたが、今日はなんだか気になった。
 そういえば、暗部仲間の誰かが、えらく神被れになっている。
 神は、どんな相手にも無条件に許しと救いをくれるとか、いっちゃった目で騒いでいたが‥、
 
 ―――試しに、懺悔とかしてみようか。










○ BACK ○

FC2 キャッシング 掲示板 無料アクセス解析
inserted by FC2 system