036:姉弟









 怪しい姉弟だった。
 アカデミーの授業を終え、陽が暮れる前にお堂へ行こうとしていたイルカは足を止めた。
 姉の方は二十代前後か、もしかしたら十代後半か。
 その瞳はきょろきょろと落ち着きがなく、まるで追われているようだ。
 姉弟だとすぐに分かったのは、手を引っ張られる十歳前後の男の子が姉とそっくりだったから。
(‥‥怪しい)
 身なりも、お世辞にも清潔とは言いがたい。
 所々に泥すらついている様相に、イルカはそっと姉弟の後をつけた。
 すると、しばらくして。

「――――泥棒!」

 パン屋の家主が血相を変えて飛び出してきた。
 慌てて走り寄ると、家主の手は姉の首根っこを捕まえていた。
 その手に盗んだらしいパンを見つけ、
「ちょ、‥ちょっと待ってくれ」
 イルカは思わず、家主の暴行を制した。
「金は俺が払うから」
 突然の申し出に、胡乱な視線を向けてくる家主だったが、相手が忍びと分かると一変した。
「それで結構ですよっ。ついでにこの二人っ、しょっぴいって下さいよ!」
「あ‥‥ああ、俺が預かるよ」
 金を受け取り、さっさと店の中に戻る主人に、イルカはため息をつき、
「‥‥っと」
 さっ、と逃げようとする二人の手を急いで掴む。
「待て待て。ちょっと話があるから」
 落ち着かせようと話し掛けたが、二人は躍起になって逃げようとする。
 とくに姉の方は手がつけられず、噛みついてきた。
「人の話を‥‥聞け!」
 痛みに、アカデミーで恐れられる怒号が飛び出た。
 二人は雷に打たれたようにびっくりする。
 目を見開く姿は、よく見れば両方とも幼かった。
 本当は、もっと年若いのかも知れない。
「‥悪いようにはしないから。な?」
 掴んだ手の細さに、イルカは心底願った。
 二人は少しの沈黙の後、
 ゆっくりと力を抜いた。
 そして、
(‥‥あ、泣かしちまった‥‥)
 気が緩んだのか、姉の方が泣き出してしまった。
 つられて弟もうるうると目を潤ませ始める。
 困ったなぁ。
 今日は、お堂に行かなくてもいいだろうか?
 陽が少し傾きはじめるが、この子たちをとても置いていけない。
 後で謝って許してもらおう。
 聞いてくれるかどうか、非常に微妙だったが。 
 









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