044:バレンタイン
そもそもは人違いから始まった。
イルカは困惑していた。
手の中には可愛らしく包装された四角い箱。それは、バレンタインのチョコだ。
しかし、生憎とイルカに贈られたものではない。同封された小さな手紙には、
”はたけカカシ様”
としっかり明記されていた。
(‥‥相変わらずもてることで)
イルカは面白くない気分で箱を表、裏と引っくり返し、大きなため息をつく。
カカシが女性に人気があるということはすでに分かりきっていることで、問題にしてもキリがない。それはいい。よくないが、仕方がない。でも、どうしてわざわざそれを見せ付けられるのか。
カカシ宛になっている荷物が、どうして自分の所へ届くのか。
チョコは荷物の中に入っていた。いつも間にか入り込んでいたのだが――おそらくカカシの荷と間違えたのだろう。
(入れたとすれば、あの時だな)
カカシは、子供たちと二日ほど任務で里を留守にしていた。その出発の時、イルカは荷の手伝いをしていたが、少し多すぎるとカカシが不満をもらした。イルカとしては、子供たちの応急具などを余分に持たせたかったが、結局、半分近くはイルカが家に持ち帰ることになった。鞄はイルカのものだったが、カカシと同じ型だった。さらに言えば、カカシとイルカは同じ家に住み、たいていの道具を共有していた。
入れられたのが無害なチョコだったから良かったものを。子供たちの騒がしさについ気をとられていた自分を反省した。
――とにかく。
「‥‥‥帰しに行くか」
どう見ても、心のこもった贈り物だ。
自分からカカシに手渡してもいいが、一応は恋人だ。本音を言えば渡したくない。
しかし、贈り主が自分の手で渡すというのなら、それは邪魔できない。だから、これは当人に一度返すべきだ。それに、
(見知らぬ男の手にあるなんて、気持ち悪いだろうしな)
人を想う気持ちを理解するイルカは、やれやれと嘆息し、立ち上がった。
カカシが帰ってくるのは明後日になるが、そういえば彼も「チョコください、チョコ」と何度もチョコチョコ言っていた。作る気は毛頭なく、冷たくあしらっていたが、
(‥‥作ってあげてもいいかも)
可愛い包装紙に、イルカは少し妥協した。
正直どうしてあの男がもてるか分からないし、告白された側として主導権はほぼ自分が握っているが、
これでも一応気もそぞろなのだ。
○ BACK ○
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