045:年中無休









 荷物の中にもぐりこんでいたチョコの贈り物には、ちゃんと名前が書いてあった。
 ”櫻井ユビナ” 
 それだけで、送り主がすぐに判明した。
 櫻井家は木の葉の里でも有数の資産家だ。里にある本家を拠点として、数多く商売の手を伸ばしている。薬剤が主体と聞くが、評判も上々。
(‥たしか、年頃の娘がいたっけ)
 豪邸を前に、イルカはまいったなあと頭を掻いた。
 大事に育てられた一人娘で、美人と評判だが見たことはない。大きな家にのまれたつもりはないが、さすがに気後れしてしまう。
 しかし、ここで立ち尽くしていても怪しいだけだ。
 イルカは手の中の包装紙を確かめ、大きな門を叩いた。
「‥‥‥‥‥‥」 
 長い静寂が続く。
 もう一度叩いてみた。――が、やはり返答はない。
 これほど大きな家だ。誰もいないはずはない。不審に思ってもう一度叩いてみたが、物音一つしない。
(‥‥?)
 留守であるとは思えない。聞こえていないのかと耳をすましてみたが、イルカはこの不気味なほどの静寂が気になった。このあたりは櫻井の私有地で人通りもないが、忍の耳に、人の歩く音すら聞こえないなどおかしい。廊下の軋みや戸を閉める音など、それくらいしてもよさそうなものなのに。
(‥‥‥‥調べるか)
 イルカは意を決し、身軽に壁を飛び越えた。はっきりいって不法侵入だが、
「―――」
 綺麗に刈り揃えられた茂に身を隠したイルカは、自分の目を疑った。
 障子の向こうの一室に、数人の女が固まっている。俯く彼女たちの表情は恐怖に染まり、それらを包囲するように男たちが三人。油断ない眼光は鋭く、どう見ても穏やかではない、異様極まりない光景にイルカは息を飲んだ。
(‥‥強盗だ)
 目的はわからないが、十中八九間違いない。
 ―――とんでもない所に出くわしてしまった。
 イルカは困った顔で、男たちを観察した。武器をいくつか携帯しているが、忍が使用するものだ。里の中で見たことがあるような気もするが、額宛は所持していない。
 屋敷は変わらず静寂に包まれているが、強盗が三人だけとは限らないだろう。
(倒せるか)
 イルカは三人の男を注視し、力量を測った。
(‥駄目だ)
 倒せる自信はある。が、その間に女性を人質に取られたら抵抗できない。女性を庇いながら戦えるほどの余裕は、残念ながらイルカにはなかった。
 倒せるかも、では動くわけにはいかない。
 最良の道は、このことを外に報告しに行くこと。だが、その間に彼らが姿を晦ましたら、やはり彼女たちの危険は増す。
 イルカは持っていた包装紙を広げた。
 贈り主に申し訳ないと思いながら、クナイで指を切り、血文字で事を記す。
 後に異変に気づく者のために。
(‥‥‥これでいい)
 それを木にくくり、イルカは静かに行動を開始した。
 気配を殺して近付きながら、
(‥任務じゃないんだけどなあ‥)
 イルカは不謹慎にもそんなことを考えた。
 正式な任務ではないが、見過ごすことは当然できない。これは自分の運が悪いのか、はたまた忍の性か。
 忍者に休みはないのだと、イルカはしみじみ思った。










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