059:グランドキャニオン









 そもそも、どうして自分がこんな状況にいるのか理解できかった。

 気がついたら、右足は死ぬほど痛くて歩けない。
 激痛に声を殺して耐えながら辺りを見渡せば、貧相な山小屋に、医療班の代わりに凡人な中忍が一人。
 わけわかんないよ。



 記憶が混乱しているのはすぐに分かった。
 痛みに熱が上がり、ろくに喋られない時もあった。

 ――いったい、どの記憶が一番新しいんだ。

 まず頭に浮かんだのは、峡谷。底が見えないような深い谷での戦闘。何人かの上忍と中忍でチームを組んで戦っていたのは覚えているが、その先はまるで思い出せない。
 どこから記憶が欠落しているのか探ってみると、どうもここ数ヶ月の記憶がぶっとんでいる。
 足が痛い。頭も痛い。その上役立たずの脳みそに、カカシは苛立った。
 右足の痛みは尋常ではない。無理をすれば歩けなくなることは分かっていたが、ここでじっとしていることは耐えられなかった。
 とにかく木の葉の里と連絡をとろうとしたけれど――あの中忍。あれが邪魔した。
 あろうことか、人の手足を鎖で繋いで犬みたいに拘束しやがった。わけわからんよ。なんでこの先生こんな事するわけ?
 中忍のことは知っていた。
 生徒の元教師で、一度だけ挨拶を交わし、とくに悪い印象は抱かず、しかし特別に覚えることもなく。
 ここにいるという事は、もしかして今度の任務のチームに加わっていたのか。

「これさあ、いいかげん外してくれませんかね〜?」

 最近では、話し掛けても無視される。
 一度逃げ出そうと噛み付いたのが気に入らないのか、怪我の手当て以外近寄らなくなった。
 治療をして世話をするということは、殺す気はないのだろうが、

「なんか喋ってくれないとオレ困るんですよ」
 
 イルカは頑なに説明を拒んだ。
 何も知らないのか。いや、そんなはずはない。では理由があって喋られないのか。それにしても、徹底的すぎる。
 うみのイルカ。
 快活に笑うお人好しそうな、覚える必要のない人間と印象を受けたのに、ここにいるイルカはまったく表情を変えなかった。監禁に関してもまったく隙のない完璧なもので、この傷ではすぐには抜け出せそうにない。
 
 ねえ、アンタ何考えてんのよ。

 話し掛けるのがアホらしくなって心の中で聞いてみた。
 少し身体が熱い。また熱が上がってきたのか。まったく使えない体だ。
 恨めしく思っていると、ふと、額にひんやりした感触。
 うっすら目を開ければ、甲斐甲斐しく世話を始めるイルカの姿。やだやだ。本当になんなのよ、この人は。

 理由も話さず、ただ監禁するならば――イルカを敵とみなさなければならない。
 いったい、この男は何を考えているのか。
 動けない自分はまるで、
 あの深い谷底でもがいているようだった。










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