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港に大きな船が停泊していた。
名を風刃弥と呼ぶ巨船は、この港町と大陸を航海する大事な海の道だ。
一週間に一度、港に訪れる風刃弥に、次々と人と荷が乗り込んでいく。
今日は出航の日だった。
「これを」
出発の直前に、イルカは懐から鍵を取り出した。
銀色の鍵を受け取ったカカシは訝しげに見下ろす。
「風刃弥内の貸し金庫の鍵です。番号は六六六。中に旅費が入っています。木の葉までの移動に役立ててください」
「あんたは?」
「俺は蓄えがありますから」
「そう」
鍵を懐に入れ、カカシは荷物を背負った。
少しびっこを引いているが、歩くには問題ない。
「‥カカシ先生。そろそろ」
なんとなく、向き合ったまま黙り込んでしまった空気をイルカが壊した。
カカシは足の向きを変えたが、
「ねえ、あんた‥本当に一緒に来ないの」
もう一度、聞いた。
「オレのこと、信用してくれるんじゃないの? ‥あんたが隠してること、全部話してよ」
「‥カカシ先生」
イルカは困った顔で笑った。
その話は、もう昨夜十分にした。朝起きてからは一度も口にしなかったのに。
この人は、どうしてそれほど躊躇うのだろうか。
(カカシ先生は優しいから)
それとも、自分のことを少しでも思い出してくれただろうか。
(話せないんです。どうしても)
そして、あなたは行ってしまう。
話さない俺を、信じないから。
でも――それでいいです。
「‥‥どうぞご無事で」
カカシなら大丈夫。きっと木の葉まで帰れる。
笑顔でそう告げると、カカシは目を伏せた。よく知っている。それは、諦めた顔。
「‥‥あんたもね」
カカシの最後の声。
――忘れない。
ああ、これでもう会えないんだ。
そう思った途端に、勝手に涙が出た。
出航前の風刃弥に乗り込んだカカシを見送り、イルカは懐から手紙を取り出す。
何度も読み返した、大事なあの人からの手紙。
[――イルカ先生。どうも戻れそうにありません。
でも絶対生き残るんで、拾いにきてもらえますか。
他のメンバーとは接触しないで下さい。誰も信用してはいけません。
オレ自身も例外ではありません。何も説明してはいけない。でも拾って?
詳しく説明できませんが、正直オレもどうなるか予想がつきません。
しばらく監禁でもして様子見て下さい。
約束は一つ。
けしてオレの傍を離れないで下さい。
つーか、見捨てないで?
帰る時は風刃弥の船で。そこの貸し金庫に旅費を預けてます。
必ず一緒に帰りましょう。
オレは、あんたと帰りたいです。
――カカシ]
あの夜。谷に出たまま帰らないメンバーの代わりに、待機中のイルカの元に一羽の鳥が手紙を運んできた。
イルカはすぐに谷に向かい、負傷したカカシを見つけた。
手紙は、本当はすぐに処分すべきものなのだが――できなかった。
記憶を失ったカカシはまるで見知らぬ他人のようで、
――手紙の中にいるカカシが恋しかったから。
(‥谷に発つ前のカカシさんなら、きっと怒るだろうな)
イルカは火遁の術で、たたんだ手紙を一息に燃やした。
残念だが、ここからはもう持ち歩くことは出来ない。
むざむざ犬死するつもりはないが、
生き残れる可能性は低かった。
[約束は一つ。
けしてオレの傍を離れないで下さい]
何度も読み返し、記憶に焼きついた言葉。
荷物を背負い、イルカは船に背を向けて歩き出した。
あの人はきっと怒る。
でも文句は言わせない。
いくら記憶を無くしてるからって、俺を置いていったあなたに、この命をどう使おうと――。
嘘です。
本当は怒られたいですよ。
あなたに、もう一度会いたかった。
ごめんなさい。
さようなら。
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