067:コインロッカー







 

 船の上から、去っていくイルカを眺めていた。
 振り返らないその背。
(‥‥一度もこっち見ないわけ)
 頬杖をついて、見えなくなるまで眺めていた。
 風刃弥が木の葉の里につくまで約十日。海の上では逃げ場がなく、敵に追いつかれたら不利になるが、イルカが足止めしてくれるならば。
(泣きもしないよ、あの人)
 後味は最大に悪い。見捨てる自分の行為が人道的でないことは重々承知しているが、笑顔で行けと言われたら――こっちもひっこみがつかない。
 立場としてどちらが生き残るべきか客観的に言えば、そこは階級社会。
 捨て駒となるのは下の人間であって、実際カカシもそうやって生き延びてきた。本意でないにしろ、投げ出される命が必要な時もある。
 行け、と背中を押されたものは信じるしかない。崖っぷちに立つ仲間の生きる意思を。
 カカシは受け取った鍵を取り出した。
 手にした時、そして、六六六という暗号を聞いた時なにかが引っかかった。
 単なる気のせいかと思ったが、
「‥開けてみるか」
 カカシは金庫室へ向かった。出航まで時間があったが、早く中身の確認をしたい。妙に心を急かされ、船の深部にある貸し金庫の管理者に鍵を見せた。
「はたけ‥カカシ様ですね。確かにお預かりしております」 
 笑顔の管理者が「暗証番号をどうぞ」と取り出した金庫のパネルを指差す。カカシはためらわずに六を三回押した。
 あっけなく開いた金庫の中からは、正方形の箱が出てきた。
 木箱は何枚もの札に封じられていて、解術が必要な仕組みになっている。
 金庫室に封札。ずいぶんな念の入れようだ。
 カカシは不審に思ったが術が木の葉流だったので納得した。自分ならすぐに解ける程度の解術だ。
 その場で開けるカカシに、管理者が気を回して席を離れた。
 札を簡単に解き、ぺりぺりと剥がしたカカシは木箱の蓋に手をかける。――その瞬間、
「‥‥‥っ」
 全身にぞわりと何かが走った。
 本能が危険だとサインを出してくる。咄嗟に箱を放り出したが、間近で強い衝撃を受けた。
 木箱が爆発したのだと遅れて気づいたが、カカシは後方に吹き飛ばされていた。
 爆発の音に管理者が慌てて駆けつけ、人も集まってくる。
 大丈夫かとかけられる声を聞きながら、カカシは朦朧とした意識の中で考えた。
(‥誰が‥仕掛けた?)
 額に流れ落ちる自分の血に、自然と瞼が閉じられる。
 意識が消える。もうすぐ、船が出港するのに。

 裏切り者が内部にいるとイルカは言った。
 まさかイルカが?

(――違う)

 否定はすぐに生まれた。そんな自分に、カカシは更に疑問をぶつける。
 鍵を手渡したのはイルカだ。
 彼には秘密が多すぎる。何も話してはくれない。
 自分は――信用されていないのだ。

(――違う、そうじゃない。だって)

 頭が酷く痛む。眩暈すら起こるのに、不思議なほど意識は鮮明になっていった。


(だって、秘密にするように言ったのはオレだもん)




 そう。
 これを仕掛けたのは――。




 ――――オレだ。










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