075:ひとでなしの恋
変な夢を見た。
三途の川なんて縁起が悪い。夢で良かったと、目覚めて安心した。
それぐらいリアルな夢だった。
――そういえば、誰かと話したような気がする。
(‥‥暗部の人。‥名前聞かなかった‥‥)
イルカは昨夜の夢を思い出し、銀色の髪をした片目の青年の風貌を描く。
年の近い木の葉の忍。顔に見覚えはない。どうして夢に出てきたのか不思議だ。
ましてや暗部に面識のある人間など。
イルカはしばらく記憶を探っていたが、
(‥まあ、いいか)
あっさり諦めた。時間が経てば忘れてしまう夢だ。気にしても仕方がない。
しかし、夢は己の望みを恥かしげもなく吐露してしまうものだ。
(アカデミーの教師とは、よく言えたもんだ)
夢の中で、イルカは嘘をついた。
前は、確かにアカデミーで教職についていたが、今は違う。
夢の中で、自分が着ていた忍服を思い出し、イルカは口元を緩めた。
懐かしい。袖を通さなくなってほんの半月だけれど。
(‥ほとんどあればっかり着てたもんな)
この先二度と着ることはないと思っていたが、夢の中なら問題ないだろう。
イルカは今、旅商人の服を着用していた。
長く親しんだ忍服と額宛は――里に置いてきた。
半月前に、何もかも捨ててきたのだ。
現在の己の身分を正しく名乗るならば――抜け忍。
まさか、自分がこんなことになるなんて。
考えても仕方がないことだが、イルカはふっ切れずに何度も考える。
教師になるのが夢だった。やっと果たせて、これからだったのに。
その愛した里を抜ける日が来ようとは。
(‥でも)
――これは自分の役目だ。
彼を、
この手で殺すために。
”――ずっと、一生ぼくだけを見てよ。イルカ先生。”
耳にこびりつく甘い声。
振り払うように、イルカは頭を振った。
背負った荷を確かめ、再び道なき道を歩き出す。
向かう先は、夢路の森の南西。
そこに町と敵の本拠地がある。森は巨大で、目的地までまだ遠いが、行かねばならない。
足が重い。
朝だというのに、陰鬱な森の湿気にイルカは眉を顰めた。
どこかで、
鳥が鳴いた。
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