078:鬼ごっこ
ふりそぞく朝日に目覚めたイルカは、無意識に唇に触れていた。
(‥‥本当に変な夢だな)
いつもの感想を抱きながら、笑みがこぼれる。不意打ちのキスだったが、その後の彼の落ち込みぶりがおかしかった。
我ながらのんきだと思うが、今回は確信を得たような気がする。
カカシは本当に存在するのだろう。
なぜ同じ夢を見るのか説明はつかないが、カカシは絶対にいる。
(この森に)
その考えは少しイルカの心に影を落とした。
夢の中では和気藹々と話しているが、同じ里の忍びならば――今の自分の立場からして会うことは出来ない。
(‥和んでる場合じゃないだろ)
イルカは己を叱咤した。
忘れてはいけない。ここへ来た目的を。
木の葉の部隊が対峙する敵が、予想通り”麝香獣”の一味ならば、自分はむしろ、カカシたちを利用しなくてはならない。
黒幕の袖に隠れる、彼をおびき出すために。
――躊躇ってはいけない。
秘めた薄暗い覚悟が、イルカの表情から色を無くす。
「‥‥?」
ふと、顔を上げた。
鳥の声がする。お世辞にも美しいとはいえない、甲高い悲鳴のような声に背筋がぞっとした。
(‥‥この鳴き声‥‥)
聞いたことがある。確か、夢から覚めた後に。
「‥‥‥」
単なる偶然かも知れないが、妙に気になった。こういう時の勘は――外れない。
イルカは声のする方へ駆けた。
鳥の声は森の中をこだまして、場所を確定しにくい。耳をすまして必死に後を追う。
離れていく鳥の声を頼りに、
「‥‥っ」
茂みを抜けたイルカは、ついに声の主を目にした。
枝に佇む細身の鳥は、頭の天辺から長い尻尾の先まで黒く、所々の羽に赤が混じっていた。それはまるで炎を象った模様のようで、何よりも存在感を放っている。紫の瞳がこちらに向けられると、イルカは硬直した。
「‥名無し鳥‥‥っ」
正しい呼び名はない。だから、皆名無しと呼ぶ。
まれに戦場で姿を見せる奇怪な鳥は、普通の鳥ではない。誰からも忌み嫌われる負の存在。何故なら名無し鳥は――死を運ぶ鳥。
半分魔性と化した名無し鳥は人の魂を餌とする。そして、目をつけられた者は、必ず連れて行かれる。――黄泉の世界へ。
「‥‥あ‥‥っ」
さらに近付こうとしたイルカに、名無し鳥はさっと空に舞い上がった。
あっという間に見えなくなった鳥に、イルカは呆然と立ち尽くす。
あの鳥が関わっていたなんて。
だがこれで、なぜカカシと同じ夢を見るのか分かった。
名無し鳥は、餌にすると決めた人間を自分の見る夢の世界へ連れ込む。
そうしてゆっくりと現実と夢の境目を漂わせて、向こう側へ引きずり込むのだ。
―――三途の川の、向こう側へ。
名無し鳥の白羽の矢が立ったのは、自分と――カカシ。
甲高い笑い声が、遠くで聞こえた。
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