080:ベルリンの壁









 カカシが夢に出てこない。
 同じ夢を見る原因がわかった今、名無し鳥のことを警告しようと思ったが、一向に三途の川の夢を見ない。いや、名無し鳥が眠っていないのか。
 しかし、イルカもまた眠る時間が限られていた。
 いよいよ近い。
 遠くから木の葉の部隊らしき忍びの動きを察知したイルカは、その時を眠らずに待っていた。
 きっと彼らが目指すのは、森のほぼ中央にある砦。
 昔の戦争時代に使われた古い砦だが、最近労働者が集められて新たな補修作業が行われていた。内部に潜む一団の調べはついている。麝香獣だ。おそらく幹部クラス。
 木の葉の部隊が攻めると同時に、イルカも中へもぐり込むつもりだった。
 手持ちの武器を広げて確かめるイルカは、遠くに確認した砦の造形を思い出し、憂鬱になる。
 彼はあそこにいる。間違いなく。
(‥‥フヨウ)
 イルカの脳裏に、あどけない少年の顔が浮かんだ。
 彼は、頭のいい生徒だった。教職についたばかりの新米教師の自分に、ずいぶんと懐いてくれ、あの砦を囲む壁の戦術は、フヨウがとくに熱心に覚えたものだ。将来有望な生徒。賢く、理性的な性格だったが――裏側には激しい一面を持っていた。
 同胞殺しは大罪。
 今でも忘れられない。
 月のない夜。彼は友人の屍を踏みつけて笑っていた。嫣然と。
 あらゆる信頼を裏切り、彼は里を去った。その道筋に幾人もの死体を作って。
 抜け忍とみなされたフヨウには追手がかけられたが、利口な少年は巧みにそれをかわし、ついには消息を断った。
 駄目だ。彼らでは見つけられない。
 その報告を受けた時、イルカは里を出る決意をした。
 仕方がない。フヨウは、自分を呼んでいるのだ。
 
 ”――探しに来て、イルカ先生”

 微笑むと、フヨウは可憐な花のようだった。

”止めないと、ぼくはもっと人を殺す”

 そうやって、笑って仲間を手にかけて―――。
(‥俺が拒んだからだと、責めたいんだな。お前は)
 伸ばされた手を振り払ったのは、確かに自分。
 後悔する時もあるが、しない時もある。未だに、答えは出ない。

”殺し合いをしよう、イルカ先生。それがあなたの責務だ”

 出るはずがない。
(―――迷っては駄目だ‥)
 武器を服の下に隠し、イルカは労働者の服を着用した。
 部隊の動きから、行動はそろそろだ。
 スコップを担ぎ、労働者のふりをしたイルカは、ゆっくりと砦に向かって歩き始めた。










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