085:コンビニおにぎり









 会おうと約束をした。
 イルカは明らかに躊躇っていたが、少し強引に押し切るとやっと頷いた。
 約束してしまえばこっちのものだ。この人はきっと破れない。
 ちょっとは自惚れていた。――少なくとも嫌われてはいないはず。
 夢の中でしか会えないイルカ。
 原点に帰れば、いまだ本当に彼が存在するか怪しいところだが、これではっきりする。
 確かな証拠が欲しい。
 目が覚めたら記憶だけに残る感触じゃなく、指に残る人肌のあたたかさが。
(‥なんか元気なかったなあ)
 窓から見える朝焼けを眺め、沈んでいたイルカの顔を思い出す。大袈裟なようだが、会うたびに痩せていくような気がする。
(‥‥夢路の森の、雪の滝に夕刻‥‥)
 遠い距離ではない。少しの間抜け出せば問題なかった。
 傷の具合は万全ではないが、どうせ今日からまたこき使われる身だ。
 カカシは起き上がり、暗部の服に袖を通した。
 ぱたぱたと村の娘が走ってきて、膝元におにぎりを置く。盆に乗ったおにぎりはふたつ。つやつやと白く輝いていた。 
「ありがと」
 空腹は敵だ。ありがたく頂戴することにした。
 がぶりと一口齧りつき、適度にふりかけられた塩の味が口の中に広がると、
「ね。これ、夕方にも包んでくれる?」
 ふと思い立って、娘に問う。――しかし、訊いてから不躾だったかと思った。
 どう見ても豊かな村には見えない。この米だってどこから出してきたのか。
 共通の敵をもつとはいえ、一般人の村人たちが今回の一番の被害者と言える。
(‥前なら、考えなかった)
 食べ物は出してもらって当然。そう思っていたが、どうして今更いい子ちゃん発言が出てきたのだろうか。
(‥‥イルカ先生に‥‥)
 そうだ。
 元気のなかったあの人に、持っていこうと思ったから。
 そして、彼ならきっと村人の腹の具合を気にするだろう。彼らはちゃんと食べているのかと。
「‥あの‥‥」
 今の言葉はなかったことにしようと口を開きかけたが、娘は「はいっ」と畏まった声を出してあっという間に立ち去ってしまった。
 言い損ねた。
 カカシの心に後悔が生まれる。
 多分言っておくべきだったと思う。――けれど、言ってどうなるのか。考えて、寒気がした。
(‥甘いことを)
 己に唾を吐きかけてやりたい。
 イルカ。
 あの人の優しいところが好きだ。けれど自分は、彼の考えを否定する立場にいるらしい。
(優しいイルカ先生)
 少し悲しげな笑みを浮かべる彼なら、こんな時どう答えるだろうか。
 きっと自分よりもずっと分かりやすく、しかし複雑な答えを出すだろう。
 それを聞いてみたかった。
 昇ったばかりの太陽に、早く沈めとカカシは急きたてた。











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2004.04.05

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