088:髪結の亭主









 村に戻ったカカシは単独行動を申し出た。
 チームワークがどれだけ大切か分かっているが、この件に関しては口外できない。
 乱れた足並みを立て直すまで、先に情報収集に立つと立候補する。
 カカシが欠けた分、戦力の激減は大きいが、今は多くの情報が欲しい時だった。
 もとより、カカシが何か掴んでいることを仲間たちは感じていた。訊いても喋らないだろう。 仲間たちは渋面したが、カカシが自分たちにとって不利益な行動はしないと判断した。
 正しくは、木の葉にとってマイナスになる愚かな行為を。
「おれたちは、必ず里に帰るんだからな」
 念を押すと、カカシは当たり前だと同じた。
 人に頼る甘さが癇に障ったが、長く共にした仲間だ。罪悪感に胸が痛む。
 ――情報収集の任務は半分だけが真実。
 もう半分は私情にまみれていた。
 しかしおそらく、イルカに近付くことが――早期の決着を生むに違いないのだ。
 

 手紙に書いてあったことはすべて真実だった。
 馴染みの情報屋を雇い、カカシは木の葉の里で起きた事件を知った。
 アカデミーの一人の生徒が狂乱。多数の死者を出し、里を抜け出したと。
 幾人の追い忍がかけられたが、すべて失敗。
 その後、うみのイルカも里から姿を消した。
 彼が追いかけているのは、この生徒だ。
 麝香獣と関わりがあると考えるのが妥当。どの程度の地位にいるか分からないが、将来を有望視されていた生徒だ。安く扱われてはいないだろう。
 更に届いた情報では、それらしき人物が幹部にいることが判明する。
 麝香獣の総帥の女。
 最近になって顔を見せるようになった女は、何もかもが謎に包まれていた。
 砦の一件も、この女が画策したとなれば筋が通る。あれは、忍びの技だ。
 では、やるべきことは一つ。
 女に対する疑惑がほぼ固まった段階で、カカシは足を踏み入れた。
 麝香獣の本拠地がある町へ。





 話は通してあった。
 団子を頬張る髪結い師の隣に、カカシは知らぬ顔で近寄った。
 小声で、ある住所が伝えられる。
 これから髪結い師が向かう場所だ。
 団子の皿を残し、歩き出した男の後を、カカシは一般人を装ってついていく。
 髪結い師はただの商人だ。情報屋を通じて、今回協力を迫った。渋ってはいたが、金をつめば問題なかった。麝香獣の本部があることで、町は活気づいている。歪んだ現実にも気づかず、通りには裕福な人間が溢れていた。
 髪結い師は宿のひとつに入っていった。
 カカシは裏手に回り、これもまた教えられていた部屋の窓に気配を消して忍び寄る。
 室内に人の気配が一人。
 やがて、
「お待たせしました」
 髪結い師も入ってきた。

「――待ってたわ」

 女の声。
 さあ――見つけた。




「もうすぐね、わたしの大切な人が来るの」
 だから特別に綺麗にするの、と女が笑う。名はフヨウ。
 髪結い師は艶やかな髪を梳き、それはお嬢さんのいい人ですかと訊ねた。
「そうよ。だから来てくれるの。‥わたし、ずいぶん待ったんだから」
 ――イルカだと、カカシは気づいた。
 そして、ずいぶん待った、という言葉に、霧が晴れる。
 狂人。
 自分も半分似たようなものなので、その思考回路が皮肉なほどわかる。
(だから殺したのか。――イルカ先生を追い詰めて、自分の所へ呼ぶために) 
 馬鹿なことだ。
 イルカには、きっと一生理解できないことだろうに。
 髪結いの仕事が終わり、女が宿を出る。
 屋根から、その姿を見下ろした。
 美しく結い上げた黒髪。白いうなじが輝き、整った美女は周囲の視線を集めたが、カカシにはすぐに分かった。
(男か)
 線が細く、仕草も女だが――若者だ。
 変化を使わずによく化けているものだが、あの少年が麝香獣に悪知恵を与えていることは間違いなかった。
(おいたにはお仕置きを)
 カカシは気配を消し、少年の尾行を始めた。










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2004.04.30

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