■ アサシン
「あ、じゃあまた後でね」
「はい。いいお魚仕入れて持っていきますよ」
にっこり笑って去るイルカを見送り、カカシは背後の同僚を振りかえった。
「あーごめん。何の話だっけ」
「‥‥明日の任務のことだ」
アスマは仏頂面を隠さず、大きなため息をついた。
「仕事の話中断して、誰と話すかと思えば――お前本当にイルカと付き合ってんだな。のん気に夕飯の話題か?」
「そ。夜はほとんどうちに来るよ〜。ちょっと昼飯食っていい? イルカ先生がお弁当作ってくれてんのよ」
「‥メシ食いながら任務の話かよ」
呆れたアスマの声を無視して、カカシは日当たりのいい芝生にあぐらをかいた。
包みを広げて弁当箱を取り出し、さっそく箸でつつきだす。
「食べる? 特別ね」
差し出された弁当箱は、お世辞抜きでも美味そうだった。
アスマは腰を下ろし、手前のからあげを取って口に入れた。
「‥美味い」
「でしょ。もうあげないよ」
もぐもぐ口を動かすカカシに、アスマはまた長嘆をこぼす。
イルカとカカシの仲は、けっこうな噂の種だった。――それが恋仲となればなおさら。
接点といえば生徒しかないが、気の合いそうな二人には見えない。よって、なれそめに様々な憶測が出て、アスマもまた、多少の興味を抱いていた。
「どうやってお前らそうなったんだ?」
「ん、気になる?」
カカシは横目で同僚を見て、「別にたいした話じゃないよ」とあっさり言った。
「いいじゃねぇか。酒の肴にさせろよ」
「うわー他人事。嫌だねぇ」
「まずい話じゃねえんだろ。教えろって」
「‥‥いやー、笑える話じゃないんだけどねぇ」
いつにない食い下がりに、カカシは仕方なさそうに頭を掻いた。
「――あの人ねえ、オレを殺そうとしたのよ」
「は?」
「びっくりよ。そうでしょ? 悪気はないけど、返り討ち100パーセントじゃない。でもさあ、意外にしぶとくて。それにあいつらの元先生だし、殺す殺さないなんて殺伐として嫌だったわけよ」
「‥‥‥それでどうしたんだ」
「ん? どうもしないよ」
「どうもしないって‥‥は? お前らうざいほど仲がいいじゃねぇかっ」
「うん。でもまだ命狙われてるし」
「‥‥‥っ」
「ベタベタに見えた? あれってけっこう集中力いるのよ〜。一瞬の油断もできないから」
「‥お前‥‥、あ‥弁当‥っ」
アスマはぎょっと自分の喉を押さえた。
その慌てぶりにカカシはくくっと笑い、
「平気平気。毒なんて入ってないから。そんなせこい真似はしないんだ。効き目薄いって分かってるし」
「‥‥‥」
「普段から気が抜けないけど、スリルあって楽しいよ。でもさあ、一番困るのが閨の中なんだよね。イッちゃうとぐったりくるでしょ。あの時が一番怖い。だから絶対あっちを先にいかせて‥‥あれ? もういいの?」
立ち上がった同僚の背に、カカシは問うた。
「酒の肴が欲しかったんじゃないの?」
「‥‥‥訊いた俺が悪かったみたいな言い方だな」
アスマの低い声に、カカシはそ知らぬ顔で弁当をつつく。
嫌な話を聞いた。
アスマは己の好奇心を心底後悔し、
「――なんでイルカは、お前を殺そうとしたんだ?」
一番底の問題を訊ねた。
カカシは箸をくわえたまま、上目遣いに背の高い同僚を見上げる。
「ん〜‥‥‥言いたくない。人間性疑われるから」
十分疑ってる。
アスマは短い息を吐き、これ以上の話は無駄だと悟った。
任務を忘れるなと言い残し、足早に去る。
――本当に嫌な話を聞いた。
だから笑える話じゃないって言ったのに。
カカシははあとため息をつき、
青空を見上げた。
「‥‥卵焼きおいし」
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2004.12.17