■ マリア
真っ暗な世界に、行灯の道ができる。
先導する光に導かれて、黒い無数の影が歩いていく。
誰も喋らず、足音も立てず、ただ歩く。
――死者の列だ。
カカシはきつく眉を寄せて、目の前を流れる顔を見送った。
どれもこれも見た顔だ。
ついさっき戦場で、この手で切り捨てた。
恨めしそうな目が、舐めるようにカカシを見る。
その視線を振り切り、カカシは列の合間を縫うように捜した。
戦場でチームを組んだ――仲間。
行かせてはいけない。
里へ共に戻ると約束したのに。
恨めしい目で見るな。
戦いなど、望んでいない。ただ、守りたかっただけだ。
このままでは。
――死者よ。列につけ。
神の声、かも知れない。
分からない。ただ声は昂然と頭上から響いた。
途端に死者の列は消える。
行灯も消え、一人きりになると、墨汁の中に沈みこまれたように、すべてが黒に変わっていく。
仲間は?
――罪深き死者よ。辿り付くべき場所へ行け。
声は再び轟き、同時に足元が割れた。
地響きを立てて地面は裂け、地の底が赤く光る。
腐臭の交じった風が吹き、空が現れた。稲妻の走る暗黒の空。
さも恐ろしき地獄図。
切り立った崖の上、底を見ればぐつぐつと赤い川が流れていた。
カカシは喉の奥で笑った。
ここまでくれば滑稽だ。
「地獄へ落ちろか」
――行け、罪を背負いし使者たちよ。
声が響く同時に、
ふっと闇から現れた死者が、崖から次々に身を投げる。
その中に仲間の姿を見つけ、カカシは走った。
しかし、伸ばした手が届く前に、仲間の身体は宙を舞った。
落ちていく様を呆然と見つめ、カカシは唇を噛み締めた。
誰も、戦いなんて望んでない。
ただ守りたいものがあって、平和を取り戻すために戦って。
それの何が罪深いか。
穏やかな里で、いずれ愛する人を見つけて、共に生きて死ぬ。
そんなことが、どうして自分たちには叶えられない。
「‥オレは、それほどたいそうなことを願ったか? ああ!?」
目の前が、再び暗くなる。
混濁する頭の中で、神は最後の言葉を吐いた。
――それは、最も贅沢で難しい願いだ。
ああ、そうかよ。
ならもう好きにしろ。
諦めたい。願うことも生きることも。
そう思った瞬間、ぎゅっと強く手を握られた。
引っ張られ、上に浮上する感触。
――目覚める。
消毒液の匂いだ。
この匂いを嗅ぐと、まだ生きてると実感する。
戦場に臨時に作られた野営か。
地面にシーツ。ごつごつした土の感触がより脳を鮮明にするが、視界はぼやけていた。
傍に誰かが座っている。白い服から医療班の男のようだが、
「‥オレ、どれくらい寝てた?」
訊ねた声は驚くほど掠れていた。声帯をやられたか、別人のような声だ。
「十二時間ほど。生死をさまよいました」
「ああ、逝き損ねたみたい」
仲間はみんな行ったのに。
最悪な夢を見た。
「‥‥オレ、何も寝言いわなかった?」
これ以上にない悪夢。意識を完全に手放したのは久しぶりだ。
訊ねながら、また意識が遠くなるのを感じた。
身体がまだ眠りを欲している。
戦地に復帰するには早急な回復が望まれる。
眠って、また戦う。生きているなら、仕方ない。
だがもう、あの悪夢は嫌だ。
知らず手に力を込めると、誰かの手を握っていることに気づいた。
いや、握られている。
かすむ目で見上げると、傍に座る男が少し笑ったようだ。
「大丈夫」
声が、とても穏やかで優しいと知る。
「大丈夫。――あなたはきっと幸せになります」
それは、鎖が解けるように胸に染みた。
あまりに不意打ちで、反発する気持ちも起きないまま、心に入ってきてしまった。
「‥‥弱ってるんだから、そんなこと言わないでよ。‥泣いちゃうでしょ」
事実、熱い涙が耳に流れ落ちた。
泣かされちゃった。見も知らぬ男に。
意識が完全に離れる前に、顔だけは見ておこうとしたが、
鼻筋を走る傷だけしか記憶には残らなかった。
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2004.12.18