□ 誓い









(これが‥あのはたけカカシ!? この草食ってそうな、のほほんとした男が!?)


 
 初めてはたけカカシを見た時の衝撃は凄かった。
 聞いていた話と全然違う。なんだそのだらしない猫背は。そのレベルの低い卑猥な本は。やる気のない目! 覆面の下でこっそり欠伸!!
 カカシの一挙一動を観察するイルカは、崩壊するはたけカカシ像に深く落胆した。
 白い牙の息子。戦場を駆け抜ける雷神の化身。千の技をコピーした天才忍者。暗部世界で名を馳せた孤高の人。
 全然違う。ほとんど詐欺だ。
 触れれば切れる、抜き身の刀のような男だと聞いたのに、隙だらけの背中を見つめて、イルカはため息をついた。
 ――がっかりだ。




「オレに憧れてたんですか」
 しかし、それから数ヶ月の間に、俺はそのはたけカカシと親密な関係になった。
 今のカカシに落胆しても、それでも憧れていた気持ちは捨てきれず、近づいてみたら案外親しみやすく、冗談で告白したらOKされた。
 棚からぼたもち。イルカは満たされた幸せな日々を過ごしていたが、
 カカシに自分のどこがいいのかと問われ、最初に抱いていたはたけカカシ像を説明すると――急に態度を変えた。
「‥そう。あんたは、戦場のオレに恋をしたんだ」
 つぶやき、カカシはベッドから抜け出して服を着始めた。イルカは慌てて、
「えっ、帰るんですか? でも、今日は泊まっていけると‥」
「そうだけど、気が変わりました。――ずっと変わったままかも」
「カカシさんっ、いったいどうしたんですかっ?」
 いくらなんでもおかしい。
 無表情なカカシに焦ると、鍵を放り投げられた。カカシに渡した合鍵。
 それを返されると言う事は――。
「自分で考えて。オレはとても傷つきました」
「カカシさん‥っ」
 呼びかけを無視され、扉は無情にカカシの姿を消した。
 一人になったイルカは、ただ呆然と虚空を見つめる。傷つけた? カカシを? そんなことは一度としておぼえがない。自分がカカシを傷つけるなんてありえないし、

 ――そんな弱い男には興味ない。




 
 窓辺で羽ばたく音がした。
 視線を向けると、黒い小鳥が目を光らせてイルカを見ている。
「‥また? 最近多いな」
 今夜は休みと聞いたからカカシを呼んだのに。こうなると、帰ってくれて逆に助かった。
 イルカはベッドから降りて、床の隠し扉から黒のケープを取り出した。下は着替えてる暇はない。向こうで借りよう。
「あ、忘れ物」
 窓から出ようとして、もう一度床の中を探る。取り出したのは、何も描かれていない面。目の部分だけ薄く開き、笑んでいるような純白の。
「俺専用だもんな」
 服はいいが、これだけは替えが利かないので忘れるとまずい。
 自分の台詞に少し誇らしげな気持ちになり、イルカはさっきまで沈んでいた気分を浮上させた。
 カカシには、まだ言っていない。
 自分が暗部に属していることを。――その中でも特別な位置にいることを。
 実践になったらカカシの方がきっと強いが、頭では自分の方が上だ。暗躍、悪巧みはお手の物だ。
 昔、カカシも自分の作戦で何度か動いたことを、きっと知らないだろう。
 あの頃のカカシはよかった。
 誰よりも強く、負けを知らない最高の忍者。
(でも今はてんで駄目)
 あれでは、一緒にはいられない。
 平和が悪いわけではない。それに甘んじるカカシに危機感を抱く。
 強い男でなければ意味がない。
 自分が守らなくても死なない、一人で戦える人でなければ、愛さないと誓ったのに。
(どうしたらいいんだろう)
 カカシは好きだ。できればこのまま関係を続けたい。
 どうすれば、昔のカカシに戻ってくれるだろうか。
 

 とりあえず、朝になったら弁当を作ってご機嫌を取りに行こう。
 あの人が大好きなイルカ先生で。








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2005.01.23

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